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マイナス貯金の取り崩し方


2018.05.27


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 毎朝の通勤電車で、どこに立つか迷う。立った場所の前に座る人は何時まで経っても降りず、その両隣がさっさと降りていく。ああ、そちらに立てばよかった、と思う。実際は運よく早く座れることも多いのに、そちらはすぐ忘れる。夫の遺産相続で手に入れた某社の株がすぐに値下がりし長い間低迷していたが、ようやく戻ったので売った。すると次の週からぐんぐん値上がりするではないか。ああ、もう1週間売るのをがまんしていれば、と歯ぎしりしてしまう。株で損した訳でもないのに大損した気分になる。つまり、逃がした魚は大きい、ということなのだ。まずいのは、それらがマイナス貯金として蓄積されて行ってなかなか減らないことである。

 私自身はポジティブ思考の持ち主だと思っている。もっと勉強しておけば、もっと丁寧な対応をしておけば、もっと子供としっかり向き合っておけば良かった、と思うことは多々あるが、「過去は変えられないのだから後悔しても始まらない、これから努力して取り戻そう」と前向きに考えられる。こちらはマイナス貯金にはならない。むしろ将来に向けてのプラス貯金になっている。

 両者の違いは明らかだ。前者は、自分でコントロールできないこと、つまり運に左右されることであり、後者は自分でコントロールできる(と信じている)ことである。前者の場合、自分ではどうしようもない力で決まっているものであるが、恩恵を受けられる可能性があることは確かである。その確率は実際はかなり低いのだが、自分の脳内でいつの間にか100%近くにまで膨れ上がる。切り株で居眠りしていればウサギが飛び込んで来ると信じてしまうようなものである。結果は期待していた最高のレベルと現実の差になるので、当然のことながらマイナス貯金に入る。

では、蓄積されているマイナス貯金はどうしたら取り崩せるのだろうか。運に左右されるものであるからその恩恵に浴しているものも同じくらいあるはずである。それをプラスとして相殺してしまうのが良いのだが、先ほどのロジックで言うと無理である。なぜなら、運よく得たものの評価額は、脳内でイメージした最高レベルと比較してしまうので低くなってしまうからである。取り崩す方法はひとつしかない。マイナス貯金の通帳を捨ててしまうことである。

ところで運に左右される部分が大きいのはギャンブルである。ゲームにもその要素が多く存在する。ギャンブル好き、ゲーム好きの人は、最初からこんな貯金通帳は持っていないのだろう。私自身はギャンブルが大嫌いである。同時に、スポーツもゲームも全く興味がない。その理由は明らかである。マイナス貯金通帳のせいなのだ。私が自分の努力で何とかなる範囲でしか冒険ができない性格である理由もこれで明らかになった。

ここまで来て気づいた。別の種類のマイナス貯金通帳を持っている人がいる。それは、過去の栄光と現実を比較して落ち込む人である。私は幸いにもその通帳は持っていないので前向きに将来を見ることができる。持っている方、早く捨てることをお勧めする。



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