前回に引き続き、大学で私が担当しているゼミの話題である。ここでは、身近な問題を取り上げて、その問題の本質を捉えたうえで解決策を見出すということを個人ワークで行っているのだが、面白いことに気づいた。「高齢者の交通事故を減らす」と「SNSでのデマの拡散を防ぐ」の各々の本質的な問題がかなり似通っているのである。
具体的に述べる。「高齢者の交通事故を減らす」の問題では、認知症の場合を除いて、無意識、不注意による事故を対象としている。横断歩道を渡らない、危険を知らせる標識を見ない、交通ルールを学ぶ気がない、などで引き起こされる事故である。その裏には、自分は正しいと信じ込み、他人の話を聞かない、理解しようとしない気持ちが潜んでいる。
一方の「SNSでのデマの拡散を防ぐ」の問題では、悪意で意図して他人を貶める情報を拡散する場合を除いて考えている。すなわち、自分が信じていることを、真偽を確認せず、他人への影響を考慮せずに安易に拡散してしまう問題である。こちらには、個人だけでなくコミュニティを形成しているという問題も潜んでいる。信じ込んでいる人達のコミュニティの中で孤立しないよう、はじき出されないように、あえて真偽の確認や反対意見を聴くことを拒否するということである。
これら二つの問題は、別々の学生が個別に分析していた。たまたま、ホワイトボードの左右に並べて問題の本質と思われる事柄と関連図を記述していたため、共通的な図式が見えてきたのである。いずれも、次の2つの問題を抱えている。
@自分(達)の枠に閉じこもり、他の意見(情報)を取り入れようとしない
A自分(達)の行動が他人に与える影響を考慮しようとしない
いずれも、適切な行動、すなわち、交通ルールを守って安全な歩行をする、拡散したときの影響を考慮して真偽の不明確な情報は拡散させない、を妨げる要因になっている。これらの要因を取り除こうとすれば、交通事故を起こしそうな高齢者、SNSで情報を拡散させたがっているユーザの持つ(a)情報の信頼度を上げ、(b)自分の行動の与える影響の大きさを理解させ、(c)自分の行動を変えることを納得させる、ことが必要となる。これが共通した問題である。
頑なに自分の持つ情報を信じている人に信頼性の高い情報をどうやって伝えたらよいだろうか。自分の行動の予期せぬ影響をどうやって理解させたらよいだろうか。今まで何も考えずにやってきた行動を変えることをどうやって納得させればよいのだろうか。いずれもそれをしようとすれば、当事者本人に負荷がかかり、エネルギーを消費する。しかも、(a)と(b)に関しては、それによるメリットは殆ど感じられない。(c)についても、自らが罰せられるか他人から攻撃される、あるいは自分が傷つくことがない限り、メリットは感じられないだろう。
この問題を解くことがゼミの後半である。ロシアのアルトシュラーが作り上げたTRIZという創造性理論を使って今までにない発想ができることを期待している。
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コンサルティングと研修のサービスを提供します。
所長:石田厚子 技術士(情報工学部門)博士(工学)
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高齢者の交通事故とSNS上のデマ拡散
2017.11.26