大学で私が担当しているゼミでは、身近な問題を取り上げて、その問題の本質を捉えたうえで解決策を見出すということを個人ワークで行っている。取り上げる問題は身近なものばかりである。「高齢者の交通事故を減らす」「空き家を活用する」「SNSでのデマの拡散を防ぐ」「障害者にも健常者にも使いやすい階段を作る」等々はほんの一例にすぎない。問題解決の手段としては、ロシアのアルトシュラーが作り上げたTRIZという創造性理論の中の、矛盾マトリクスと発明の原理を使っている。TRIZの詳細は省くが、取り上げた問題の本質を対立する要素に置き換え、各々をパラメタとして矛盾マトリクスを適用し、そこから発明の原理を取り出す。それをヒントにして解決策を発想するのである。
TRIZの発明の原理というものは40個ある。それを見ただけではすぐに解決策には結びつかない。あくまでもヒントである。発明の原理の一つに「災い転じて福となす」がある。デメリットを逆手にとってメリットにしてしまう、というものである。例えば、市場に出回っておらず、殆どの人が知らないとても良いものを売りたいと思った時、希少価値をアピールすることでデメリットをメリットに変える、という対策がとれるかもしれない。
実は、毎年多くの学生がTRIZを使っているが、導き出した発明の原理には「災い転じて福となす」は殆ど出て来ていない。しかし、生活の中には結構多くのデメリットがメリットに変えられるケースが多い。例えば、私自身の問題としてよく挙げる長距離通勤がある。これは一見すればデメリットの塊のようだが、メリットに変えられるものも多い。長距離通勤により、ジムに行かなくとも運動ができるのである。立っている時間には体のバランスを取り、体幹を鍛える。駅での乗り換え時の人込みの中では、人にぶつからずに早く移動することで反射神経を鍛える。その他にも、停まる直前の車輛の空いている座席をホームから見つけ出すことで動体視力を訓練し、見たことのある乗客がどの駅で降りるかを覚えることで記憶力を高める訓練をする。その費用は(通勤費として)勤め先が払ってくれているのである。
話は変わるが、60代最後の歳になると、同年配の大半はリタイアしているか仕事の量を減らしてプライベートな活動を増やしている。そのためか、同級生や昔の同僚たちと集まる機会が増えている。話題に上るのは、当人、あるいは知り合いの現役時代の栄光の思い出であったり、若かった頃の「あの頃が最高だった」という話だったりする。最初は、そういった話を聞くのがちょっとつらかった。なぜなら、私には話せるような栄光も、最高の時代も思い浮かばないからである。しかし、最近になって、これこそが、私が働き続けるモチベーションとなっていることに気づいた。つまり、このまま栄光も、最高の時代も知らないで終わったらつまらない。少なくとも、死ぬまでに世の中に対して自分が納得できる貢献をして足跡を残したい。100歳まで30年もあるのだから、この先何かを成し遂げることができるかもしれない、と思うのだ。働き続ければ体も健康になるし、頭も活性化される。一石二鳥ではないか。弱みだらけの私には、逆手にとって強みにできるものが沢山ありそうである。
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コンサルティングと研修のサービスを提供します。
所長:石田厚子 技術士(情報工学部門)博士(工学)
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災い転じて福となす
2017.11.19