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上昇志向の功罪


2017.10.08


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 組織の中で出世する人、権力を得ていく人は、まず間違いなく上昇志向が強いと思う。それは、ライバルを押しのける、自分の意見を周りに押し付けるなどの言動となって、周囲からそれと知られるようになる。ただし、逆は必ずしも真ではなく、上昇志向が強ければ必ず出世するわけではない。女性の場合、特に組織内で上がっていくには環境条件が厳しいので、上昇志向ばかりが目立つ気の毒なケースがよく見られる。

 上昇志向の強い人は敵を作ることも多い。色々な場面で周りの人とぶつかるからだと思われる。もちろん、組織の中でより良い仕事をしていく上で、違う意見の人と議論することは必要である。むしろ、議論のない組織は衰退するだけである。しかし、それも程度問題である。感情的にただぶつかって他者を排除するだけでは、組織は発展しない。私は、上昇志向の強い人と付き合うことになると、敵に回すことをしないまでも、徐々に距離を置くようにしている。たとえ地位の高い人であっても、付き合っていて疲れるからである。

 私の父親が上昇志向の強い人だった。尊敬する面は多かったが、ぶつかることが多かった。一緒に暮らしていた高校時代までは、早く独立して家を出たいと思っていたし、家を出てからは殆ど実家に帰らなかった。普通の父親と娘のような近さはなかったと思う。ぶつかった理由は、私の数学の成績がよいのが(女のくせに)生意気だ、といった、現在なら考えられないようなものである。今にして思えば上昇志向が強すぎて、娘に追い越されるのが嫌だったからではないか。言い返す私も悪かったのだが。

 私自身は、仕事と子育てで体をぎりぎりまで酷使していた40代までは上昇志向が強かったと思う。職場でも上司や同僚とよくぶつかった。仕事の仕方が人間関係を悪くすると指摘されたこともある。歯を食いしばりすぎて、下の奥歯は左右とも義歯になってしまった。それに、この20年間で2回もお腹を切る手術をしてしまった。若い頃に無理をしたツケが回ったのかもしれない。しかし50代からは、周りに敵を作らないように、穏やかに、ひそやかに暮らしている。ストレスをためない、疲れないための省エネモードである。

 上昇志向がなければ、私もここまで頑張れなかったかもしれない。男性の同僚の平均的なレベルくらいまでは出世したし(女性にしてはたいしたものだと密かに思っている)、二人の子供、二人の孫にも恵まれたし(人並には育児をしたつもりである)。でもこれから先も上昇志向をむき出しにしていると、心身に大きなダメージを与えるだろう。何より敵を作ってしまう。それは困る。なぜなら、これからの人生100年時代、長く働かなければならない私を助けてくれるのは「健康」と「よい人脈」だからである。

 好きだったドラマは最後の一週間でバタバタと収まるところに収まって終わってしまった。寂しいが大丈夫である。ドラマには、続編だってスピンオフだってある。私の人生にも、また別の場所で続編やスピンオフドラマが生まれる可能性がある。今さらむき出しの上昇志向など必要はない。省エネモードで穏やかに、ひそやかにやって行けばいいのだ。見えないところで上昇志向を温存しながら。



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