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存在していなかったものを作り出す力


2025.12.21


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 十数年前に、TRIZという理論(発明技法とも呼んでいた)の利用法について検討する仕事をしていた。TRIZは過去の膨大な発明(特許など)を分析し、新たなものを発想する思考のパターンを分類し、それを利用して次の技術の創造や発想をする技法である。ChatGPTなどの生成AIが、過去の膨大な情報を学習して新たなものを(膨大なエネルギーを消費して)作り出すのと同じことを、多くの人手をかけて行っていたようなものである。その時言われていたのは、発明の大半は過去に創造されたものの組み合わせであって、かつて存在していなかったものが生み出されることはごく稀である、ということである。TRIZは、かつて存在していなかったものを生み出すことは対象としていなかった。

 生成AIでも同じことが言われている。過去に無かったものから学習することはできないので、新たなものを生み出すことはできない。それができるのは人間だけであると。これだけ聞くと、一見、人間はAIよりも偉いと思いがちだが、普通の人間にそれができるわけではないことはすぐわかる。一般人なら、汗水たらして働いて、働いて(以下省略)できることは、他の人がやったことのちょっとした改善が精一杯である。であれば、私たちは、AIに仕事を奪われる日が来てしまうことを想定して準備しておかなければならない。

 人間にとって、新しいことを学習するのには時間がかかる。まず、やる気を出すまでに時間がかかる。学習を持続させるのには時間とエネルギーが必要だ。でも、AIは(膨大なエネルギーを消費するものの)文句も言わず学習に励み、かなり品質の良いものを生み出す。もう人間はAIと戦うのを諦めて、その指示に従うしかないのか。

 私は少しだけだが希望を持っている。人間にはまだ知られざる能力が眠っているように思えるのである。人間の脳の仕組みは未知である。「火事場の馬鹿力」ではないが、思いもよらない力が、ある日突然湧き出す可能性は捨てきれない。

 一つ、不思議な体験をしたことを例に挙げておきたい。ここのコラムで毎週書いているのでまたかと思われるだろうが、2025年11月下旬、インドのベンガルールに行っていた。実は、いくつもの(小さな)トラブルがあり、帰国した日は、立ち上がれないほど疲労していた。高齢者なので回りに迷惑をかけてはならない、とかなり緊張していたのだろう。その糸がプツンと切れたような感じである。しかし、幸いそこからの回復は速かった。それどころか、頭が非常に冴えて、物事がかなり整理されている感覚があった。お陰で、報告書作成などの仕事がかなり進んだ。なぜか。多分、たった1週間の間にかなり脳が刺激を受けたからに違いない。脳にかかったストレスが脳を活性化させたのだ。

 ベンガルールのヒンズー経の寺院を訪ねた時、赤ちゃんが成長し、大人になり、老人になり、病に倒れて亡くなり、骸骨になるまでの、かなりリアルな作り物が展示されていた。それを見て、自分はこれから倒れて骨になるのか、とがっかりした。でも、そのような一方向のルートを辿ると決まったわけではない。戻る力は必ず備わっているはずである。そう信じて、もっと脳にストレスを与えることを来年(2026年)の目標にしよう。

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