トップページ > コラム

複雑なことを単純にしてはならない


2025.8.10


イメージ写真

 最近、どう考えても単純と思われることを複雑にして、時間とコストを無駄遣いすることが目立つ。例えば、某市長の学歴詐称など、一見すれば誰も問題にしないであろうことを、日本中で大騒ぎしている。できるだけ自分が傷を負わずに現状維持したまま、嵐の去るのを待っている「保身のため」としか思えない。真実はひとつなのに苛立たしい。

 自分の行為が誤っていることが分かっていても、何とか理由をつけて正当化する。一つの嘘をごまかすために、嘘を重ねていくと、物事はどんどん複雑になる。そのうちに、自分でも何が正しくて、何が嘘だかわからなくなる。脳すらも騙されてしまうのではないか。

 一方で、真逆の行為、つまり、複雑なことを単純にして周りに強いインパクトを与えることも多く見聞きする。世界中で増えているポピュリズムの動きなどそれに近いと私は思っている。身近な問題を一刀両断して解決できるように見せるので、つい飛びつきたくなる。物事を深く考える必要がないので、脳が沸騰しそうな暑い時期には有難い。しかし、世界が抱える問題はそんなに単純なはずはない。地球温暖化も、民族や宗教や文化の違いにまつわる人間同士の争いも、経済も、すべて、複雑さを増している。ちょっとでも想像力を働かせれば、物事が単純でないことは分かるはずである。

 一方は、つじつま合わせのために余計なものをどんどん付け加えて複雑にする。もう一方は、面倒なものを切り捨てて目立ったところだけに注目する。全く逆の行為だが、先の例でも分かる通り、どちらもうまくいかないのは明かである。ただ、人々の捉え方には差があるようだ。前者は大多数が「無駄な行為」と捉えている(と私は思っている)。後者は、ひきつけられる人が結構多く存在する(ように私には見える)。ひょっとしたら、複雑になることを恐れる人間の本能かもしれない。とすれば、この地球の抱える問題は、複雑すぎて人間の脳の考える能力を超えてしまったのだろうか。いよいよ、AIの力を借りなければ地球の存続が危うい時が近づいているのではないか。とすると、AIが人間の能力を超えるのをあえて待たなければならない局面に来ているのか。

 日本の抱える問題に焦点を当ててみる。今最も求められているのが「生産性を上げる」ことである。これはすべての産業にあてはまる。最近話題になっている「コメの増産」のためにも、いかに生産性を上げるかが課題になる。少子高齢化が避けられない状況であれば、人手不足解消のために海外からの人材に頼らざるを得ない。さらに、AIによる自動化は加速していくだろう。人間に求められるスキルは複雑で高度なものになっていく。このような時代に、物事を俯瞰的に見て解決策を考えることは重要である。だからといって、物事を単純化して周囲への影響を切り捨てるのは間違っている。私たちには、もっと複雑さに耐えられる能力が求められているのだ。

 単純化してよいものはもちろんある。最初に述べた「保身」のための時間とコストの無駄遣いである。さらに、知らない番号からの電話には出ない、有名企業を騙るメールは開かないなどの切り捨ては「護身」のために必要だろう。見極める力も求められている。

コラム一覧へ