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誰かに制御されてしまう恐ろしさ


2025.6.6


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 なぜ、ネット上の嘘の情報を信じてしまうのか。他の情報をよく調べればわかるはずなのに。なぜ、詐欺の電話にひっかかってしまうのか。あれほど警察やマスコミが注意を促しているのに。これまで私は、人は「信じたい事や物」をあらかじめ持っていて、それによって情報のフィルターを作り、選別した情報で意思決定するのではないか、と考えていた。さらに、「信じたい事や物」は、生育地、信仰、教育など、その人が生きてきた道筋や環境に影響されて形作られてくるもので、変えることは難しいと思っていた。しかし、これに疑問を感じるようになった。人間は案外簡単に「信じたい事や物」を作ってしまうのではないか。

 何かがニュースになれば、どこのTV局も朝から晩まで同じ内容を流しているので、これが真実であるかのように思い込んでしまう。世の中の動きが激しいので、それに疑問を抱いて確かめる余裕がない。ただし、「信じたい事や物」は多様である。「コロナのワクチンで死んだ人が多いのでワクチンは打つべきでない」、「コメの価格は高すぎるので正常な価格にするべきである」、さらには陰謀論や都市伝説まで。その違いは、裏付けとなる科学的根拠があるか、という点と、実感できるか否かではないか。しかし、結局のところ人それぞれ基準が違うので「信じるか信じないかはあなた次第」ということになる。それに加えて、人間は理屈ではなく感情に動かされる。詐欺に騙されるのも、「窮地に陥った子供を助けたい」「(犯罪者になって)つかまりたくない」「損失を取り戻して無かったことにしたい」といった感情が、信じたい気持ちを強めてしまう。

 「信じたい事や物」に制御されるのを防ぐ方法はあるだろうか。まずは感情に左右される部分に注意を払うことが必要だ。冷静になるということである。その上で科学的根拠を含めた第三者の意見を求める。コメの正常な価格とはいくらなのか。なぜ、子供や自分の行動を信じられないのか。「信じたい事や物」が冷静に評価できれば、それに制御されることによる危険は減るはずである。さらには、形作られる「情報のフィルター」も変わってくるので、騙される機会、その先で偽情報を拡散させる機会も大きく減るだろう。

 ここまでは、人間の感情や行動をある程度理解できることが前提の人間世界の話である。人間の脳が簡単に騙されるものだということを知った上での対策が必要になるだろうが、生身の人間である私たちなら、医学の進歩で何とか克服できるのではないかと期待はできる。しかし、人間でないものが作り上げたものを人間は評価できるだろうか。

 これからはAIの時代である。AIが人間の指示したことを人間より正しく、迅速に処理してくれる段階であれば対応できそうだ。しかし、もしも、AI自身が人間には想像もつかない「信じたい事や物」いや「人間に信じさせたいもの」を作り上げてしまったらどうだろうか。これからのAIならできるはずである。それに基づいて世の中に情報のフィルターができ、私たちはそれを通した情報で意思決定することになる。そのときこそ人間はAIに制御される存在になってしまう。そうなる前に、せめて人間が作り上げた「信じたい事や物」を正しく評価し、真偽を判断できる力を持っておかなければ、人間に未来はない。

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