11月の下旬、サンフランシスコとシリコンバレーの企業や組織を訪ね、先端ITの動向を調査してきた。帰国前日のことである。次の訪問先とのミーティングの前に、一緒に行ったグループ全員が昼食を取っていた。「さあ、搭乗24時間前ですよ」。一人が声を上げた。皆、一斉にスマホを取り出し『帰国便のオンラインチェックイン』を始めた。通路側が取れたと喜ぶ人、座席の変更が出来ないと落ち込む人など様々だったが、みなチェックインはできたようだ。私はというと、昼食を食べることに専念していた。外出先でスマホを使って作業をすることが困難だということを実感していたので、最初からする気がなかった。夜にホテルに戻ってからゆっくりやればよい、通路側でなくても構わない、と考えていた。
私が外出先でスマホを使う際の障害となっているのは、画面の文字が読めないこと、指使いが下手で入力のミスが多いこと、別途送られてくる認証コードがどこかに隠れてしまって見つからなくなることなどである。いずれも高齢者ならではの悩みだと思う。
その日ホテルに戻ったのは夜の10時過ぎだった。それから帰国便のオンラインチェックインを始めたのだが、何度やっても最後でエラーとなり、チェックインカウンターへ行くように促された。どうも座席の割り当てができないようだった。結局諦めて寝てしまった。次の日、ホテルのチェックアウトの直前に、最期にもう一度だけとやってみたら、すんなりとチェックインでき、座席も取れた。しかも、残りものには福があるらしく、私にとってはとても良い席だった。お陰で、11時間以上の飛行時間でも快適に過ごすことができた。
一緒に行ったグループのメンバーのうちの若手の人たちは、前夜私がホテルに戻った頃には深夜まで開いているコーヒーショップに行き、帰りは自動運転の無人タクシーWaymoのアプリを使ってホテルに戻ったということである。人間の運転よりもずっと安全運転だったそうだ。本来なら、私のような高齢者こそ使いたいサービスだが、とてもできそうにない。Waymoのサイトを覗いてみたが、どうやってユーザ登録するのか、どうやってタクシーを呼ぶのか、理解するまでにはかなりの障害物を乗り越えなければならないように思う。このサービスが本当に使えるようになるまでにはまだ多くの技術開発が必要だろう。
私達が訪問した企業や組織では、いずれもChat-GPTに代表される生成AIをいかに早く取り入れ、成果を上げたかを強調していた。そして、現在のAIは人間のアシスタントとして力を発揮している段階だが、これからは、自律的なエージェントとしてユーザにサービスを提供できるようになる、と口を揃えて言っていた。エージェントになることで何が変わるのか。一番わかりやすいのがUI(ユーザ・インタフェース)である。つまり、現在はユーザが操作をしながらサービスを受けるのに対して、これからは、ユーザがやりたいことを伝えれば最適な方法でやってくれるということである。新たな時代のUIは、ぜひ、目が見えづらくても、指先が覚束なくても、記憶力が減退していても問題なく目的が達成できるようなものになって欲しい。それを次の段階のAIを使った技術やサービス開発に求める。
サンフランシスコとシリコンバレーで私が見たものは、次の情報技術の可能性を熱く語る技術者たち、街中にうずくまる多数のホームレスの人たち、そして、早朝から深夜までホテルの入り口に集まってドラム缶、バケツ、ごみ箱を叩きながら「賃金上げろ」と叫んでいるデモ隊の人たちだった。米国の根深い問題を見せられた1週間だった。
自分の信念に従って行動する「高い志を持つ、市場価値の高い技術者」を育成します。
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コンサルティングと研修のサービスを提供します。
所長:石田厚子 技術士(情報工学部門)博士(工学)
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私の目と指が教えてくれた次の技術
2024.12.1