易の勉強をしている人から占いの話を聞いたとき、あることを思い出した。それは、かつて文化人類学や民俗学の本を読んでいてなるほどと思ったことである。太古の昔から多くの地域で重要な意思決定に様々な占いが行われていた理由の一つに、思考のランダム化があったということである。意思決定には、どうしても過去の成功体験が大きく影響する。それだけに頼っていると、資源の枯渇に結びついたり、環境の変動に対応できなかったりする。それを防ぐために、占いを使って人間の思考を掻き回す必要があるということである。
しかし、科学的な根拠もなく、理論的な裏付けもなく、どうとでも解釈できる占いをなぜ信じるのだろうか。そこで、権威付けのために「易経」のような経典や、それを解釈する学問が必要になったのだろう。さらに、人の心の中にすっと入り込んで信じ込ませる「人気の占い師」のような人も重要な役割を担ってきたのだと思う。
ここには危険も存在する。受け止める側にしっかりとした判断力がないと、占いの権威づけのための経典や占い師に支配されてしまう、という恐れである。事実、占い師のような人に思考や行動の全てを支配されてしまう有名人の話は昔からよく聞く。
それでは、科学的根拠があり理論的な裏付けがある、と世の中の人が認めたもの、例えば人工知能(AI)なら信じてよいのだろうか。AIは過去の大量のデータを最新の理論と最新の技術を使って分析し、我々の質問に答えてくれる。しかし、その理論や技術は本を読んでも素人には理解できない部分が多い。それでも我々は(嘘も含めて)信じてしまう。これもまた占いと同じように危険ではないか。受け止める側にしっかりとした判断力がないと、AIに思考の全てを支配されてしまう。そのような可能性を考えておくべきではないか。
数年前まで、私は大学で情報関係の学部の学生の卒業研究の指導をしていた。そのテーマは「創造性を高める」ということであった。その手段として「TRIZ」という技法を使った。TRIZは発明技法などと呼ばれることもある。ロシアのゲンリック・アルトシュラー氏が膨大な特許を分析して1970年代に作り上げた理論で、私はその中の「40の発明原理」をゼミで使っていた。これは発明に結びつく問題解決の仕組みを分類したものである。ゼミでは自分で解決したい問題をこの「40の発明原理」に当てはめて解決策を導くことを行っていた。発明の原理は最終的な答を教えてはくれないが、新たな考え方のヒントをくれる。解釈には自由度があるので、最終的に発想するのは問題解決したい人自身である。私は、TRIZをある種の近代的な占いのようなもののように捉えていた。答えは教えてくれないが、凝り固まった思考をかき混ぜて新たな方向性を示してくれるものである。
AIもまた「思考のランダム化」の手段として使うこととし、最終的な判断は人間がすべきだと思う。つまり、自分では気づかなかった新しい視点で物を考えてくれるパートナーとしてAIを使い、それを解釈するのは人間であるべきである。さらにはその結果を使って、人間は過去に無かったものを創り出す必要がある。決してAIに支配されるのではなく、将来を創造するためにAIを利用するのである。
自分の信念に従って行動する「高い志を持つ、市場価値の高い技術者」を育成します。
「市場価値の高い技術者の育成」を目指して、
コンサルティングと研修のサービスを提供します。
所長:石田厚子 技術士(情報工学部門)博士(工学)
コンサルティングと研修のサービスを提供します。
所長:石田厚子 技術士(情報工学部門)博士(工学)
トップページ > コラム
占いとAIと創造性
2024.10.27