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なぜChatGPTは間違えたのか


2024.6.30


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 ある事実を知ったときにその理由や原因を突き止めたくなる。それが正しいとは限らないのだが、その場合でも「なぜそれが理由や原因だと思ったのか」といった思考のプロセスを探るのも楽しい。最近の例を紹介しよう。

 ポルトガル語の勉強を始めて3か月以上が経った。デリカテッセンの店で店員さんが「こちらでお召し上がりですか?お持ち帰りですか?」と尋ねるシーンでの「パラ コメ ラキ? パラ ビアージェ?」でひっかかった。前半が「ここで食べるためですか?」だと言うことはすぐわかった。では後半はなぜ「お持ち帰りですか?」なのか。ビアージェとは一体何なのだ。そのとき、「持ち帰り」は家で食べるためを想起させるが、実際はお弁当として持っていくことが多いのではないか、と気づいた。であれば、ビアージェは旅行のことではないだろうか。確認したわけではないが、多分これは正解だろうとは思った。その理由は、ビアージェがフランス語のボヤージェ(旅行)に似ていることである。多分語源は一緒なのだろう。最後は辞書で確認して一件落着した。

 タイトルにあるChatGPTの話に移ろう。最近、Raspberry Pi Pico(ラズパイ・ピコ)というマイコンを使った電子工作にはまっている。このコラムでも何度か話題にしたが、MPU6050という温度、加速度、角速度センサーとつないでデータを取って表示するプログラムをMicro Pythonで作った。その時私が頼ったのはChat GPTである。やりたいことを日本語で伝えてプログラムのコードを教えてもらった。実は、2回依頼して、2回とも動かなかった。1回目の依頼では、Wi-Fiと接続されていなければ動かないとコメントがあったので、(Raspberry Pi Pico wならできるが)ラズパイ・ピコではだめとすぐわかった。2回目は、’bad SCL(Serial Clock) pin’と言うエラーで止まった。ピン番号の設定が違っていた。間違いはすぐに分かったので一瞬で修正することができた。なぜ初心者の私でもすぐに修正できたのか。それは、ピンの番号を確認しながら色の違うワイヤを使って間違いなくつなぐという作業を行ったからである。ピンの位置の確認は結構大変である。しかし、ネット上にはラズパイ・ピコのピンの構成と目的についての情報は多く出ている。事実それを参考にして初心者の私もつないでいる。それをちゃんと読んでいれば間違えるはずはない。なぜそんな簡単なことをChatGPTは間違えたのだろう。それを突き詰めていけば、どうやってプログラムコードを出してくるのか分かるかもしれない。

 ChatGPTが示すコードは文法的には間違っていないが、意味までは考えていない可能性がある。さらに、そのための情報収集もしていない。つまり、現段階では、文法的に間違えていなさそうで、動きそうなプログラムをネットから拾ってきて表示しているだけということになる。だから、きちんと動くかどうかは保証の限りではないのである。

 ピンの意味を知って正しくつなぐことなどすぐできるはずだ。いずれAIは人間の思考を超える日が来るだろう。でも、体を使って行う経験とそれを蓄積した記憶というものが生身の人間にある以上、体を持たないAIにはどこかに限界があるかもしれない。

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