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杖を持つ手


2017.07.16


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 思いもよらぬ病気で10日を超える入院をしてしまった。その間手術を行ったのだが、術後の経過は大変よく、退院時には手術をしたことを忘れるくらい痛みも無く快適な状態だった。しかし、問題は別の所にあった。左足がしびれて力が入らず、うまく立てない、歩けないという状況に陥ってしまったのである。これには焦った。片道3時間の通勤などとてもできそうにない。すでに大学の講義は2週間分休講にしてしまっている。どうやって取り戻せばよいのだ。

 リハビリをしてくれていた理学療法士の話によれば、手術前に2日2晩、寝返りも打てずに苦しんでいた際、左側を下にしていたため、左側の腓骨神経が麻痺してしまったのだろう、ということだった。それから3日ほど筋力トレーニングや低周波電流を流す治療などをやってもらい、ようやくよろよろ自力で歩くまでには回復した。しかしこれでは外は危なくて歩けない。そこで、杖をつくことにした。  家族に杖を買ってもらったものの、どうやって使ったらよいか分からない。すぐにスマホで情報収集した。何と、杖は弱い足とは反対の手で持つとのことである。つまり、左足が悪い私は右手で杖を握ることになる。腑に落ちないままやってみると、確かに、左手で持つとうまく歩けないが右手で持つと楽である。

 何故、弱い足を支えるために同じ側で杖を使ってもうまく歩くことができず、弱い足から離れた場所で支えるとうまく歩けるのだろう。部屋の中をあちこち歩きまわってみて気づいた。杖は弱い足を支えて強くするためにあるのではなく、体全体のバランスを取るためにあるのだということである。つまり、「強い右足」と「弱い左足+杖」を交互に使って歩行していく際に、「弱い左足+杖」ができるだけ力強くなるためには安定していなければならず、そのためには離れていなければならない、ということである。さらに、杖は弱い足の代替品ではなく、3本目の足であり、3本の足で歩くことで安定的な歩行を実現するというものなのだ。

 同じようなことがチームの運営にも言えるのではないか、と考えた。チームの中には優秀なメンバー(強いメンバー)もいればそうでないメンバー(弱いメンバー)もいる。チーム全体のパフォーマンスを上げるためには、弱いメンバーに張り付いて指導するのではなく、全体のバランスを考えつつ、離れたところから支援していく方が、チーム全体から見れば有効ではないか、ということである。弱いメンバーのギプスになるのではなく杖になるのである。

 さて、入院してから3週間が過ぎたが、まだ杖は手放せない。部屋の中などの短距離の移動には必要がないが、100メートル以上の距離を杖無しで歩くのは無理である。左脚の麻痺はかなり解消しているが、ふらつきを恐れて様々な筋肉にかなりの負担を与えているようなのである。杖は安心を与えるためのものでもある。杖をついていると周りの人もやさしくしてくれるので、しばらくは甘えていることにしよう。



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