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もう一つの依存症の恐ろしさに注意すべき時


2024.4.21


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 最近の報道で『依存症』という言葉が多いことに気づく。大半が「ギャンブル依存症」であるのは、違法賭博に絡む最近のスポーツ界のニュースの影響であることは明らかである。通常言われる依存症の特徴は、「快楽物質により抜け出せなくなる状況」であると言う。ギャンブル以外でも麻薬、酒など、一時の快楽が忘れられなくて深みに嵌っていくことは容易に想像がつく。さらには、抜け出すことを阻害する組織的な悪の力も大きい。しかし、ここで私が取り上げたいのは、快楽物質とは無関係のもう一つの依存症である。

 この1,2年でAI(人工知能)の技術の進展は目覚ましく、我々の生活を大きく変えてきている。AIに聞けば知らないことを何でも教えてくれる。だから無理に覚えなくてもよい。翻訳も通訳もお手の物なので、外国語の勉強を無理してする必要などない。多様なアイディアを出してくれる。面倒な仕事は代わりにやってくれる。論文も報告書も自分が書くよりずっとうまく書いてくれる。さらに、寂しければ話し相手になってくれる。親兄弟や友達に話せないことでも、機械相手なら恥ずかしさを感じずに話せる。AIは本当に有能な通訳兼執事であり、信頼できる友人にもなりうる。AIに面倒なことは任せて、自分は楽しいこと、得意なことだけに集中できる。こう思ったら、AI依存症になるのは時間の問題だ。

 技術が進歩すればそれをうまく活用するのは当たり前である。そうして我々は便利な機能を利用して快適な、豊かな生活を享受してきた。AIだって同じではないか、と思いたくなる。しかし、これまでの技術とは大きく違うと私は考えている。それは、人間の脳に近いということである。依存が進むにつれて、人間の考える力が奪われる可能性がある。また、動物としての本能である危機の察知能力、回避能力も弱まるだろう。最終的には、人類は自身を制御して自律的に生活する力を失ってしまうかもしれない。

 想像してみよう。ある日突然、信頼して全てを任せていたAI執事(秘書、友人)が闇の組織によってハッキングされ、悪意を持った存在になってしまったらどうだろう。自分に入って来る情報は遮断されるか、改ざんされて届けられる。自分が発信する情報も改ざんされたり伝えられなかったりする。任せていた面倒な仕事を介して財産や信用を奪われる。そして、その事実は当然ながら自分には伝えられない。AI依存症になってしまった人間は、自分で判断する能力も危機管理能力も落ちてしまっているので、気付かないうちに破滅に追いやられる。あり得ないことではない。

 私たちが注意すべきは、ギャンブル、麻薬、酒、さらにはスマホ、ゲームなどなどの依存症だけではない。さらに、もう一つの「楽をするための依存症」にも十分気を付けるべきではないか。楽をすることは自分の脳や身体を使わないことを助長し、認知症の発症にも影響するかもしれない。AIの利用で生産性を上げようとする動きは加速するだろう。その一方で、我々は人間としての能力の訓練を忘れてはならない。

 最近の大きなニュースを見聞きするうちに、我々は様々な依存症のリスクを負っていることに改めて気づかされる。マフィアやハッカーは我々のすぐ背後にいるかもしれない。

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