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ポイントを貯めたら叶うのか


2024.4.14


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 小学生の孫が「結婚するのにはものすごいお金がかかるんだよ。」と言いだした。家族で少子化問題について話し合っているのだろうか。さらに、「ポイントが貯まると子供が生まれるんだよ。」と言い出したので、何の話かと思わず笑ってしまった。そうなのか。日本の少子化問題が解決しないのは、ポイントが貯まりにくいからなのか。

 日本人はポイントを貯めるのが好きだ。それは、マイナポイントがもらえるということを餌にしてマイナンバーカードを作らせ、情報紐づけをさせた政府の取り組みによく表れている。だから、ポイントが貯まったら何かが叶う、できる、と思うことはごく自然であるように思える。少子化と結びつける発想も理解できなくもない。でも、かつては、貧しくてもポイントなど貰えなくても大半の人が結婚し、当然のことのように子供を作ったではないか。何が違うのだろうか。

 私が若かった50年くらい前には、後継ぎを生まなければならない、結婚しないと世間から何を言われるか分からない、両親や兄弟に迷惑がかかる、という理由で結婚せざるを得ない状況に追い込まれたケースは少なくなかった。でも、一般的には「今は貧しい二人だけれど、一緒に助け合って働いて行けば幸せになれる」「最初は狭い借家暮らしでも、がんばれば広い自分の家に住める」「子供を作るのは大変だけれど、いずれは子供たちが稼いでくれて自分たちの老後を支えてくれる」という風潮の方が強かったように思う。先ほどのポイントになぞらえれば、「お金持ちになったら結婚する」「ポイントが貯まったら子供を生む」ではなく、「結婚すれば金持ちになれる(可能性が高まる)」「子供を作ればいずれはポイント(将来の安心)が貯まる」ということになるだろうか。

 多くの日本人の発想が変化したのは、やはり昭和から平成に変わった頃からだろうか。それは高度経済成長期が終わり、経済が低迷し、日本の世界における存在感がどんどん失われてきた頃である。少子化は社会や経済の「変化の方向と大きさ」と強く結びついているのではないか。かつては、結婚して子供を作るのは『投資』だった。今は、逆に、投資にはリスクが伴いリターンが保証できない、今より悪くなる恐れがある、という気持ちが強くなっているのだ。社会の変化というのは行動に大きな影響を与える。上昇は推進力となり、下降はブレーキとなる。また、変化が少ないのもブレーキとして働くように思える。

 私が働き始めた50年以上前には、企業では男女の待遇も給与も大きく違っていた。入社した時から女性は管理職にはなれないと会社からも言われていた。セクハラ、パワハラは日常茶飯事だった。それでも働き続けたのはなぜか。それは、自分が、明治生まれの祖母、大正生まれの母とは明らかに違う社会に生きていると実感していたからである。私は、男子と同じ学校に通い、同じ教科書で学び、同じ試験で合否が決まる、という教育を受けてきた。これからも社会は変わるだろう、その日のために技術力を磨いておかなければならないと信じていたからである。全ての苦労も努力もその日のための『投資』だったのだ。

 ポイントが貯まるのを待っていたら、結局夢も叶わなくなる。そう思うのだが。

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