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本物は自分で見つける


2024.1.7


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 遡ること9年前、2015年の1月は、ビジネス誌から学会誌まで同じテーマの特集を組んでいた。2045年に来ると言われていたAIが人間の知能の総量を超える「シンギュラリティ」まであと30年という「2045年問題」である。本屋のIT関連コーナー、ビジネス書コーナーには多数のシンギュラリティ関連本が平積みになっていた。この騒ぎはしばらく続いたが、徐々に消えて行った。ところが、最近になって風潮が変わった。「シンギュラリティはもっと早く来るのではないか」といった意見すら見え隠れしている。生成AIの開発と幅広い展開の影響である。確かに、最近のAIの力は目を見張るものがあり、もう、ビジネスでも教育でも無くてはならないツールになっている。

 実を言えば、私自身もちょっと違った意味で生成AIの助けを借りている。大学の私の科目の試験はネットにつながった状態で学生自身のパソコンを使って実施している。何を参照してもよいのでAIの力を借りることもできてしまう。だから、あらかじめ問題を生成AIに与えてどのような解答を出すかを確認する。これは私の負けだと思わせるご立派な解答を出してきたときは問題の表現を変える。現在のところ、まだAIは問題の主旨を正しく捉え切れていないという感触だが、もう半年もしたら私の負けは確定するかもしれない。

 生成AIがどんどん進化して人間のビジネスや教育のよりよきパートナーになってくれるのであればそれに越したことはない。怖いのは犯罪などに利用されて社会を混乱させることである。フェイク画像や音声はもう人間では真偽が判断できないレベルに来つつある。では人間はどうすればよいのか。これは人間が本来持っている感覚を研ぎ澄まして自分で真偽を判断するしかない。つまり、自分の頭で考える力をつけることに尽きるのだ。そして、周りの風潮に流されず自分自身の考えをしっかり持つことも大切である。

 私は多様性を尊重することを信条にしている。人それぞれ考え方や価値観が違うのは当然であり、私自身の考えを押し付けてはならないと思っている。逆に、他人の考えに安易に流されないようにしようとしている。例えばある学者の説や意見を信じ込んでいる人がいたとして、それはその人の問題なので認める。だが、私自身はまずは疑ってかかって確認する姿勢は崩したくない。あえて他人と摩擦を起こさないようにしたいので反論はしないが、自分自身で確認し、納得したことだけを信じる。真実かフェイクかを判断することもその延長線上にある。多様性を認めつつ自分自身を確立できる人間が、今求められている。

 とは言え、自分自身の考えを持つことは容易ではない。私だって、アクティブな高齢者の活動に関する様々な記事や書籍、認知症にならないための予防法や寝たきりにならないための健康法の情報、様々なサプリメント、トクホ、機能性表示食品の広告などには、つい心が動きがちである。この歳でこんなに頑張っている人がいるのに私は今のままではだめかもしれない、何とかしなければなどとつい焦り、引きずられそうになる。しかし、情報に惑わされることなく、自分自身の若い時からの失敗を含めた経験から培った判断力を、今こそ発揮するべきなのだ。私の行動は私自身が判断して決める。本物は自分で見つける。

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