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戻ってきた冬の風物詩


2023.12.31


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 年末の直前になって、大学で私が講義を担当している全てのクラスの期末試験が終了した。試験中の教室を眺めていてあることに気づいた。やたらうるさい。もちろん私語ではない。あちこちで「ごほごほ」と言う咳、「ずるずる」という鼻水、そして鼻をかむ音である。そして気づいた。コロナ前に戻っている。2019年以前の期末試験の時期はずっとこうだった。インフルエンザかただの風邪かは知らないが、多くの学生がこんな状態だった。これが冬の風物詩だったのだ。それが2020年からの3年間はインフルエンザの流行は無く、コロナに感染したら期末試験の受験はできないので、教室にいるのは咳も鼻水もない学生だけだった。だから教室内は静かだったのだ。

 ニュース番組でも冬の風物詩が戻ってきていることを連日報道している。忘年会で飲み過ぎて電車を乗り過ごし終着駅まで行って途方に暮れる人たち、道路に酔って寝転がる人たち、など「困ったものだ」と眉を顰めるより「コロナ前に戻った」とちょっと嬉しそうなコメントが見受けられる。繁華街に行かなくても実感できる。通勤電車は厚手のコートで膨らんだ人たちが詰め込まれて身動きできなくなっている。隣の人との間を空けながら座席を確保していた時期があったことなど忘れてしまいそうだ。電車内では咳き込む人が多いのに、マスクをかけている人は半分にも満たない。マスクをかけている人の多くは高齢者と子供である。

 さて、本当にコロナ前に戻ったのだろうか。いや、そうではない。例えば試験であるが、私のクラスではいずれの科目でも問題用紙を配布する試験は止めている。試験時間中に問題を発表し、学生は自分のパソコンで解答を作成してその時間内に教育システムを使って送信する。私は終了後にそれを一度にダウンロードするだけである。試験にパソコンを持ち込み、それがネットにつながっているのだからAIだろうが何だろうが参照できる。ここからは試験問題を作る教員の力の見せ所になるのだが、問題の意味を理解せずにAIに頼って試験を受ける人と自分で考えた解答を作成できる人を区別する取り組みは続く。

 試験だけが変わったわけではない。授業用のテキストは教員が教育システムにアップロードし、学生はそれをダウンロードする。教員も学生も自分のパソコンを持ち込むことが前提である。プログラミング演習などを行うパソコン教室には、かつては教師用と学生用のパソコンが並んでいた。それが一切なくなった。つまり、今後パンデミックが起こっても、オンラインで授業が継続できる仕組みが出来上がっているということである。

 コロナ禍で(当初はしかたなく導入された)リモートワークが定着したかに見えたが、コロナ後になってリモートワークの実施率が落ちていると報道されている。働き方改革に結びつく取組だったのに本当にもったいない。その原因が現行のリモートワークの仕組みがセキュリティ上の問題を抱えていること、人同士のコミュニケーションの必要性、システム導入コスト、などにあるのなら、技術(メタバース、AI、クラウドなど)で解決できる部分も多い。通勤電車の混雑が冬の風物詩でなくなる時代が来ることを切に望む。

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