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私は何をもってその存在を正当とするか


2023.12.24


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 2023年も間もなく終わろうとしている師走、めちゃくちゃ忙しいと言いながら、時間ができれば夢中になって読んでいる本がある。SF作家のアイザック・アシモフの「黒後家蜘蛛の会」(1巻から5巻)である。新聞の書評欄で知り、すっかり嵌ってしまった。1970年代から1980年代に出版されたものであるが、現代とも違う、かといってそれほど過去でもない微妙な時代の話が心をくすぐる。各巻は12編の短編から成っているので、隙間時間でも楽しめる。何より、論理的な謎解きの面白さは抜群だと思う。

 登場人物は、学者、弁護士、作家、画家など6人の裕福な階級の中高年男性とあと一人の男性の7名が固定していて、それにゲストの男性1名が加わる。彼らが、毎月決まったレストランで会話を楽しむ。その中でゲストが話す困りごとや謎を推理していくというものである。6人が各々の持つ知識で考えを述べるが解決はできない。すると最後にあと一人の登場人物が見事な推理で解決してしまう。これが定番の流れである。

 この会では、ゲストは必ずこう聞かれることになっている。「あなたは何をもってご自身の存在を正当となさいますか?」つまり、自分の存在理由を聞かれるのだ。私はこの部分に来ると、自分が聞かれているかの如く身が引き締まる。黒後家蜘蛛の会は女性の参加は認められないので、私がゲストになるはずはないのだが、こう聞かれたら何と答えたらよいだろうかと悩んでしまう。答えられなければ、私は生きている価値が無いということではないか。

 企業に勤めていた10年前までは、会社のHPに書かれている文言(例えば、〇〇で社会に貢献とか何とか)を引き合いに出し、そこで自分が担当している仕事内容を付加してそれらしく述べることができた。その後の10年は、大学で講義やゼミをしていることを取り上げて「これからの社会を作っていく人材を育てている」、とか何とか言うこともできた。しかし、来年度からは全くの個人として自分の存在を正当化しなければならないのだ。技術士事務所自営業者なのだから、HPに書かれていることを引き合いにして(それらしく)述べられるはずなのだが、もしも仕事が無くなったらどうしようと心配がつのる。

 1年半前からプライベートで新たな活動を始めている。ただ、これは私にとっては存在証明以前の段階であり、勉強の意味合いが強い。他人に説明するときは、「発見、探究、学びの日々を送っている」と言っている。これはこれで毎日楽しく、頭と体の健康には欠かせない活動である。しかし、存在を正当化するには足りないのだ。そんなとき、何か地域の役に立つことができればよいのでは、と思い付いた。そこで、地域ボランティアの情報をネットで検索してみたところ、シニア向けのパソコン教室や小学生向けのプログラミング教室などを手伝うボランティアを見つけた。これならできるかもしれない。問合せのメールを出したところ、すぐに返信があり、そこからとんとん拍子に話が進んだ。来月から、県の「生涯学習センター」でパソコンボランティアを始める。

 『私はこれまで仕事で得てきた情報技術の知識と経験でできるだけ多くの人の学びを支援することでその存在を正当とします』。

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