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あなたは何をしているのか(part 2)


2017.06.18


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 初対面の人とお互いに自己紹介をしあうとき、相手の仕事について尋ねることが多い。殆どの場合、求める答えが得られなくてがっかりする。これは若い人に限らず中堅クラス以上の人を相手にしたときにも見られる傾向である。

 例えば、「どの様なお仕事をされていますか?」に対して、「○○に勤めています」と答える人に対しては、「その会社では全員が同じ仕事をしているのか?」と突っ込みたくなる。同様な答えは「横浜の会社に勤めています」「△△の駅の近くのビルにある会社に通っています」などがあるが、「だからそこで何をしているんだよ」と心の中で苛立ってしまう。これは何かを隠すために質問をはぐらかしているのかもしれない、とも思ったりする。

 一方で、やたらに具体的な答に遭遇することも多い。「一日中パソコンに向かっています」に対しては、「私だって同じだよ。でも私と同じ仕事しているわけじゃないだろ?」と言いたくなるし、「資料集めをしています」に対しては、「そもそもそれって、仕事じゃなくて作業じゃないのか?」といら立ちが募る。まるで、金魚すくいで金魚に逃げられてばかりいる時、オクラが箸で掴めない時の様である。

 こちらが知りたいのは、仕事の内容、すなわち、何に対してどういう価値を提供しているか、なのだ。例えば、「乳幼児のために着心地の良いベビー服をデザインしています」とか、「高齢者が使いやすいウェブサイトを作っています」のように、企業秘密を出すことなく仕事の内容を伝えてもらえればよいのだ。その内容に興味があれば、「企業秘密は出さなくて結構ですので」と前置きした上で、「例えばどのようなベビー服ですか?それはどこで売られているものですか?」などさらに詳細に聞くことができる。

 大学で私が行っている「情報システム」の講義の中で、ビジネスモデル、ソフトウエアのモデル、データ・モデルなどの「モデル」について教えている。知識を与えるのではなく一緒に考える、という講義である。そこでは「モデル」を、「対象となるビジネスや物をパターン化した上で他との違いを表現したもの」と説明している。その心は「抽象化して言いなさい。でも他のものは違う特徴を示すこと」というものである。抽象化は大変難しく、企業の管理職研修でもうまくできないことが多い。だから学生には、多くのビジネスモデルの例を、パターン化した図と特徴を表す言葉で表現して見せる。

 あなたの仕事は何か、を問う時、具体的な製品や技術など守秘義務に当たるものを口にしたくないのであれば、モデルで語ってくれればよいのだ。つまりパターンと特徴である。「ウェブサイトを作っています」がパターンなら、「高齢者が使いやすい」は特徴になる。パターンだけでははぐらかし、話したくない、ととられかねない。「本を売っています」では出版社なのか、書店なのか分からない。「品質管理をしています」では工場などに縁のない人には仕事のイメージすら湧かない。

 自己紹介はコミュニケーションの第一歩である。名刺を渡して所属部門と地位を示したとしてもその人がどのような仕事をしているかは、社外の人には伝わらない。それを伝えてこそコミュニケーションが図れるというものである。突然聞かれて的確に答えるのが難しければ、日頃から、自分の仕事が相手に伝わるように準備しておくべきだろう。適度な抽象化をして、他との違いはきちんと入れることがポイントである。



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