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ビジネスと犯罪とゲームの世界


2023.11.05


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 情報処理推進機構(IPA)が出している「2023年版 情報セキュリティ10大脅威」によると、「組織」向けセキュリティ脅威の第10位に初登場したのは、犯罪のビジネス化(アンダーグラウンドサービス)である。ダークウエブ、ディープウエブ等のアンダーグラウンドの世界では、様々な取引が行われている。盗まれたパスワード等の認証情報は勿論、サイバー攻撃用のツールも売られている。さらには、サイバー攻撃の代行サービス、それらのサービスのサブスク化も行われている。なお驚くことに、この世界ではサイバー犯罪人のリクルートも行われているそうだ。まさに、我々の世界でのビジネスモデルがそのままアンダーグラウンドの犯罪世界にコピーされている。

 最近発覚した別の犯罪にも驚いた。「頂き女子りりちゃん」と称する若い女性が、男性から大金をだまし取っていたというもので、一見するとよくある犯罪だが、そのノウハウをマニュアルにして売っていた。通常のビジネスモデルをうまく写し取った犯罪である。ひょっとして、最近の犯罪者はビジネス書をかなり読み込んでいるのではないか。

 「頂き女子」のビジネスモデルの先にはさらなる展開があった。だまし取った億という金はホストと所属するホストクラブに流れていたようなのだ。こうなると、ビジネスではなく別の面も見えてくる。頂き女子は一体何をしたかったのだろう。この話を聞いた時、すぐにゲームの世界を思い出した。私はゲームが嫌いですることはないので想像も含まれているが、最近のゲームでは、何かを育ててそれを押し上げることに喜びを感じているものがあるようだ。まさに、頂き女子がやっていたのは、男性をだましてお金を徐々に多く頂くことを「育てる」と見なし、沢山のお金を頂くことで達成感を得るゲームだ。さらにそれを使って押しのホストに使うことで、彼を「育てて」ランクを上げることでも達成感を得ていたのではないか。前者には自分の才覚(?)による達成感もあるが、後者はまさにお金で買える達成感になる。ゲームにはまって大金を投じてしまう人は後者の沼にはまっているのだ。

 ここまで見てきて、ビジネス、犯罪、ゲームの世界が非常に近いものだと実感する。最近は、ビジネスとゲームの世界の境界から新しいものが創造できる可能性があると注目されている。ただ、ここに犯罪が迷い込んでくると、相互の境界線付近にはかなり危険なものが生まれることだろう。そちらの対策はより強化していかなければならない。

 ところで、あくまでも私の個人的感想であるが、高齢者から老後の生活資金をだまし取る「振り込め詐欺」と、同じ詐欺でも頂き女子による詐欺および詐欺ほう助は、被害者に対する見方が異なる。いずれも犯罪者が悪いのだが、振り込め詐欺の被害者の高齢者には同情の気持が湧くのに対して、頂き女子からお金をだまし取られた男性にはそれほど感じない。前者の被害者は脅されてパニックにさせられて金を取られ、精神的に追い詰められている。一方で、後者は本人が同情心からお金を提供してその結果として感謝されたと信じ、その場では達成感を感じていたのではないか。お金で買える達成感である。危険なゲームに高額をつぎ込んでしまったとも思えるのだ。繰り返すが一番悪いのは犯罪者である。

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