最近珍しくない発言に「高齢者が優遇され過ぎている」というものがある。数年前には「世の中を悪くしたのは団塊の世代だ」と言われていたが、それよりは言い方が柔らかくなっているけれど高齢者が批判されていることに変わりはない。
日経ビジネス独自アンケート「世代間の公平性に関する意識調査」が2017年3月30日〜4月7日にかけて行われ、その結果が5月26日の日経ビジネスオンラインで報告されている。それによれば、予想通り、年金や医療、介護保険制度で「高齢者を優遇しすぎ」と考えている人が70歳以上ですら半数以上いるそうだ。さらに、現在の経済・社会的な境遇で最も恵まれているのはどの世代か、に対して50%以上が70歳以上と答え、次の60代(20%)を大きく引き離している。
この結果については私も同意せざるを得ない。ただ、これは、団塊の世代以上の(70歳前後以上の)人たちがずるいことをして得たものではない。結果としてそうなった、ということである。例えば、私の初任給は4万円台だった。共同のトイレ、風呂、洗面所、電話は呼び出し、賄いつきの女子寮に暮らしていたので生活費は殆どかからなかった。給料の多くを天引預金として会社に預け、それに年8%の金利がついたので、5年後に結婚退職したとき結構な額の貯金ができていた。まじめに働き、つましく暮らしていれば憧れていた食べ物、旅行、服が手に入る、という夢が抱けたのだ。
私自身は、よく言われる「戦後の日本の経済成長を支えてきた(頑張ってきた)世代だから優遇されて当然」というのはおかしいと思っている。それ以降の人たちだって変化の激しい経済情勢のなかで頑張って働いているのだ。ただ、その結果が返ってきていないのが実情である。それが分っているから、現在の働き盛りの世代に何とかしてあげなければと思っている。具体的には、健康でいることにより医療費を減らすことと、仕事をして収入を得ることにより年金を減らすことである。高齢者が仕事をすることは、働き盛りの世代の過酷な労働を軽減することにつながり、高齢者自身の健康を維持することにもつながる。
問題は、70歳前後以上の人たちが働きたいと思っても仕事を得ることが難しいことである。たまたま私は、月曜日から金曜日まで(通勤時間は往復6時間だが)大学で教え、土曜日の午後も仕事をしている。同年配の人にこの話をすると気の毒がられるどころか羨ましがられる。ただ、こうした仕事が得られているのは偶然の積み重ねである。会社員時代に、大学の非常勤講師を代わってあげたことがきっかけであり、定年退職後、フルタイムに変わったというだけである。仕事を得るための参考にはならないだろう。仕事を得るためには新しい技術や必要な資格を身に着ける必要があるのは事実だが、技術や資格があっても仕事が得られる保証はない。解決策は、まず高齢者に仕事を与え、それを達成するために技術や資格を身に着けようという気持ちにさせることではないだろうか。私も学生に新技術を教えるために勉強は欠かさない。高齢者を批判するならその前に仕事を与えてもらいたい。そうすれば次の世代の負担を軽くすることができると思う。
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所長:石田厚子 技術士(情報工学部門)博士(工学)
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批判するより仕事を下さい
2017.06.04