トップページ > コラム

人間の脳はどう変化していくのだろうか


2023.7.9


イメージ写真

 我が家の近所のマンションに3階建ての立体駐車場がある。まるでパズルのように車がずれて行き、空いたところを車が下りていく。うまくできていると感動した。でもいずれこのような駐車場は必要なくなるだろう。個人で車を持たなくても、依頼すれば自動運転車が目の前に来て行きたいところに運んでくれるようになる。空飛ぶ車も使えるようになれば、鉄道の利用もしなくて済むようになる。どこかに行きたいという意思さえ持てば好きなところに行ける時代はくるはずだ。手足が不自由になっても脳さえしっかりしていれば。

 人間の脳の容量は3万年の間に1割縮小しているそうだ。人間の脳が小さくなっていることは様々な研究で報告されている。生きていく上で有効な機能が発達し、そうでない機能が消えた結果、現在のサイズになっているのだろう。これは決して脳が退化したからではない。現段階で最も効率的に生きるための進化の結果なのだ。

 言葉によるコミュニケーションが可能になったことで、人間同士の情報共有や協力関係の構築が容易になり、相互の探り合いや危険の察知の能力は徐々に必要性が薄れてきたはずだ。分業ができるようになったことで、個々の人が必要とする能力も限られたものになってきている。使われない能力は失われていく。私の父は技術者だったが、非常に手先が器用だった。その父が手を動かすことの下手な私の世代の技術者のことを嘆いていた。現代の技術者は自分で手を動かすより優秀なロボットの力を借りるはずである。

 AIの進歩は著しい。これから先、人間が書くよりも面白い小説がどんどん生み出され、人間が作るよりも人を感動させる美術品や音楽が生み出される可能性がある。私個人としては、AIが作ったと明示してくれさえすれば大歓迎である。なぜなら、誰が作ろうと面白い小説を読んでみたいし、美しい美術品を手にしてみたい。いまだかつてない感動する音楽を聴いてみたい。楽しめればそれでよいではないか。AIを超える「人間にしかない創造力」を追求したくなる気持ちは分かるが、果たしてそのようなものがあるだろうか。

 人間の脳はどう進化していくのだろうか。言い換えれば、生きていく上で必要とされる能力は何だろうか。私は、自分の弱い部分を補完してくれるもの(AIを含む高度な技術)をうまく使いこなす能力だと思っている。具体的には、正しく問題を設定し、自分の意思を明確にする能力であり、必要な支援者(AIなどの技術)に的確に依頼する能力とも言える。それができれば、支援者の力を極限まで引き出し、課題の解決に結びつけられるはずである。

現実の世界では、存在する様々な問題は多くの要素が絡み合っており、明確に表現することが難しい。だから人間は短絡的に勝手な思い込みをして的外れな依頼をしてしまう。それでは的確な解決策や支援を引き出すことは出来ない。出された課題の主旨を取り違えたままチャットGPTにレポートを書いてもらっても点数はもらえない。つまり、脳みそに汗をかいて考え抜く努力は相変わらず必要なのだ。

 これから3万年後に人間の脳はさらに小さくなっているかもしれない。いや、その前に手足が退化している可能性もある。あまり見たくない世界であるが。

コラム一覧へ