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それは本当に因果関係ですか


2023.4.2


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 不思議なことに、家電品が同時期に次々と壊れたり不具合が起きたりすることがある。何かの呪いかと思いたくなる。冷静になって考えれば単なる偶然が重なっただけなのだが。最近は、買い物は週一回と決めているのにいつも使っている食材が一斉に尽きてしまった。何者かが私を飢えさせるために企んでいるのか、と愚痴を言いたくなる。これも、気持ち悪くはあるが偶然であることはすぐわかる。科学的根拠があるわけでもないし。

 偶然が呪いのように見えるのは笑い飛ばせる。しかし、世の中にはこれに似たような、しかも危険な状況が存在する。それは、相関関係を因果関係と思い込むことから生ずる。一見科学的根拠があるように見えるのでたちが悪い。例を挙げよう。

 ある人が「コロナの感染が拡大するのはワクチンを打つ人が増えたからだ。ワクチンが感染を拡大しているのだ」。と主張しているのを聞いた。その根拠は、ワクチンを多くの人が打つ時期にはコロナの感染者が激増しているからだという。これこそ、相関関係を因果関係と思い込んでいるということである。暑い夏にアイスクリームが良く売れるのを見て、アイスクリームが猛暑の原因だと主張するようなものである。しかし、後者は誰でもおかしいと思えるのに、前者について真面目な顔で信じている人がいるのはなぜなのだろうか。

 コロナに関して言えば、人類が初めて遭遇したものを対象にしているのでデータが不足しているとともに分析も十分に行われていないことが大きい。目に見えているのは相関関係だけである。それすらデータが取り切れず数値で表せないものが多いので現象のごく一部である。そのごく一部の相関関係を因果関係に無理やり結びつけるのがいかにナンセンスかは明白だろう。そうしがちなのが人間であるのも確かである。

 先のコロナの感染拡大とワクチン接種の関係を主張している人は、ネットを検索して情報を収集し、周りの人たちに持論を伝えているという。この情報収集も問題である。人は自分の信じていることを支持する情報を選択的に収集し、反対する情報を無視する傾向があるからである。こうしてある種の宗教集団のようなコミュニティが出来上がっていく。

 科学的根拠を求めるのであれば、科学論文の発表に対して多大な査読作業が必要なように、多くの人の目を通す必要がある。科学論文におけるデータの改ざんは厳しく追及される。だからこそ信用性が増す。これこそが科学ではないか。『変化の春は悲喜こもごも』で述べたように、2000年頃のネイチャー誌の話題の論文の解説を読みながら、当時の最先端の研究成果が20年以上経った現在どうなっているかを見ている。当然ながら後続の研究の結果が加わることで、新たな方向に行ったり、評価が変わったりしている。

相関関係は因果関係ではない。相関関係から出た仮説を信じ込むのではなく検証していくことが大切である。これがなければインターネット時代を生き延びていくことはできない。国全体が同じ色に染まるのが怖いと同様に、同じことを信じる人たちが固まっているのも怖い。多様な人の意見を聞き、最後は自分自身で判断することが今こそ求められている。さて、私はいつマスクを外そうか。

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