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自由意志を侵害されることへの抵抗感


2023.2.5


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 所得税の確定申告をe-Taxで予定通り行った。昨年も同時期に書類を作成して申告を行ったのだが、数日後に税務署から電話があった。書類の電子認証ができていないということだった。半年前にマイナンバーカードの電子証明書の有効期限切れに伴って再申請したのだがそれがシステムに反映されていなかったらしい。税務署の指示は、国税庁のサイトからe-Taxのマニュアルをダウンロードし、〇〇〇ページの項番△△からの手順に従った処理を行った上で、書類を再送付するようにとのことだった。必要な処理は手順通りに行えたものの、一体どの段階に戻って申告をし直せばよいのか理解するのに時間を取ってしまった。無事に再送付できたのでほっとしたのを覚えている。今年はうまくいくことを願う。

 年初の恒例行事としてもう一つ、大学の次年度の授業のシラバス作成がある。それを別の教員が審査して通れば学生への公開となる。大学からシラバス作成とシステムへの入力の指示が来たので、まず手順のマニュアルのダウンロードを行った。次年度は今年度と同じ授業を担当している。ざっとマニュアルを見たところ、大きな変更のあることが分かった。慌ててマニュアルをじっくり読みこみ、変更点と必要な処理を書き出して、シラバスの修正を行った。変更の理由と対処方法が理解できたのでほっとした。審査が通ることを祈る。

 所得税の確定申告や大学の授業のシラバスの作成でマニュアルを読み込まなければならないことは確かに面倒で時間を取られる。できれば何も考えずに前回のものをコピーして済ませたい。しかし、マニュアル通りに行うように指示されても心が乱されることはない。作業内容そのものは私の自由意志でできるものではなく、国税庁や大学(文部科学省)の決まりに従って行われるものだと分かっているからである。作業そのものは義務であり、淡々と進めるべき仕事であると認識しているのだ。

 先日、「産休、育休中のリスキリング(学び直し)」について国会で議論になり、ニュースでも取り上げられた。リスキリングが日本の経済回復や、個人のキャリア構築に大きな意味を持つことは誰もが知るところであり、企業も力を入れつつあることも分かっている。にもかかわらずなぜこれが否定的に取り上げられたのか、一瞬分からなかった。考えるうち、これが指示されることに対する抵抗感であると気付いた。

 産休、育休中にリスキリングをしている人は確かに居る。私自身も2人目の子供を妊娠中に勉強して出産直後に技術士の資格を取った。子育て中には独学で新しい情報技術を学び、その後の仕事に活かすことができた。しかしこれは自由意志で行ったことであり、誰かに勧められて行ったわけではない。産休、育休の時間の使い方は個人の問題である。その人の環境、携わっている仕事、将来に向けてのキャリアプランは個人個人で全く違う。学びは自発的にやるべきものであり、他人に指示されて行うものではない。

 例えば私がこの時期に「出産育児の時期こそ勉強すべきですよ。あなたも頑張って」などと誰かから言われたら、かなり不愉快に感じたはずである。それは自分の心の中に土足で踏み込まれた気分になるからである。自由意志を侵害されることへの抵抗感は強い。

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