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パラレルワールドに違和感はない


2023.1.22


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 この一年間で(過去に読んだ本の再読も含めて)様々な本を読んできた。その中で最も納得し、さらには自分の生き方にも影響を与えたと思われるものは、「なぜ世界は存在しないのか」(マルクス・ガブリエル著)である。この若い哲学者による新たな思想の非常に分かりやすい論述によって、私の世界観が古めかしい固定化されたものから、多様なものを受け入れられる柔軟なものに変化していったように思える。それにより、非常に心が安定した。一方で、自分が疑問と思うことについては徹底して調べるという気持ちも強くなった。つまり、他者の意見は尊重する一方で、それに飲み込まれるのではなく自分の意見はしっかり持っておくということである。

 ガブリエルの哲学である新実存主義では、存在することは何らかの『意味の場』に現れるとする。世の中には数限りない『意味の場』が存在するが、それらのすべてを包含する『世界』は存在しないとする。私がそれにより救われたのは、自分には理解しがたい考え方でも、それが私の存在する『意味の場』にはなく別の場に存在するとすれば距離をおくことができると思ったからである。さらには、世の中全体を支配する絶対的な原理のようなものが無いとすれば、自分の考え方と反するものでも別の『意味の場』に存在し、どちらが正しいかなど判定はできないことになり、柔軟に受け入れることもできる。

 今年になって読んだ「量子力学の多世界解釈」(和田純夫著)は、光は波であり粒であるという量子力学の問題を「世界は無数に存在し、それらは共存する」と解釈している。これは現在の主流である「波の収縮と確率」による解釈(コペンハーゲン解釈)とは全く違ったものである。複数の状態が共存するという考え方はパラレルワールドのようで荒唐無稽ではあるが、量子力学の不思議な現象を無理なく説明していると私には感じられた。なぜなら、宇宙のすべてのものの変化をセットとして追跡するという考えにより、電子が観測された痕跡とその後の変化は、別の観測の痕跡と変化とは互いに干渉しない別物とすることができるからである。

 複数の道筋や状態が共存できると考えた時に、ガブリエルの『意味の場』と共通するものであると気付いた。いずれも、現実の世界を理論的に説明できると信じられている既存の理論で無理やり解釈しようとすることで生じるゆがみや対立から解放されて、より自由な発想が出来る。世界を支配する原理がありそれに従わなければならない、と考えた時の閉塞感から解放される。

 現在の私は、過去の分岐点での意思決定について「あの時別の道に進んでいたら」という感情を抱くことはない。様々な可能性は存在しているにしても、現在の私が辿った道はひとつであり、他の(共存する)道とその結果(つまり無数のパラレルワールドにいる私)とは無関係だからである。私のすべきことは、将来の分岐点でできるだけ良い選択ができるように準備することだけである。自分とは考え方の違う人たちとの付き合い方も、干渉しあわないように努めて柔軟に受け入れることでより良い方向に行くはずである。

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