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謎が解けるとき


2023.1.8


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 もう65年以上前のこと、時々、小学校の門前で怪しげなおじさんが怪しげな物を売っていた。下校途中の小学生の多くがおじさんを取り囲んでそれを手に取っていた。あるとき「体が透けて骨が見える眼鏡」なるものが売られていた。一人の子がおじさんにうながされてそれを覗いて「骨が見える」とびっくりしていた。私はそれが何なのか知りたくてたまらなかった。しかし、次の日にはおじさんはおらず、その後も見かけることは無かった。この正月に何気なくテレビを観ていたら、今でも売られている怪しげなグッズというコーナーで「透視眼鏡」なるものが紹介された。まさにあれではないか。カメラで覗いた先にははっきりと鳥の羽の羽軸と羽弁が映っていた。それを脊椎と肋骨に見立てていたのか。子供だましとはまさにこのこと、とあきれると同時に、長年の謎が解けたことに嬉しくもあった。

 テレビのお陰はまだある。私は目薬を差すのが下手で、いつも涙と一緒に目からこぼれ出ていた。どうして私だけが出来ないのか。ある健康番組で「目薬の正しい差し方」というものが紹介された。片手でこぶしを作って目の下に固定し指で瞼を下げ、こぶしの上に目薬を持った手を固定させて瞼の裏に一滴落とし、瞬きせずにじっと待つだけである。その通りやったら全くこぼさずにきちんと差すことができた。失敗続きの70年間を返して欲しい。

 さて、最近1年間の謎解きにも進展がありそうである。私の一つ目の謎は、ビッグデータをどれだけ分析しても相関関係は出ても因果関係は出てこないことである。この3年間のコロナ禍で多くのデータが取られたはずなのに、コロナ感染の原因は一向に分からない。人流だ、飲酒飲食だ、旅行だ、イベントだ、とあれこれ想像して自主的に行動を制限するしかなかった。しかし、「因果推論の科学」(ジューディア・パール著)という本と出会い、謎が解けそうである。ここでは、「なぜ?」という問いには従来の統計学やデータ分析からだけでは答えられないということが書かれている。さらに、現在のAIのレベルは「なぜ?」に答えられる段階にないということも示されている。人間の持っている、より上のレベルの能力(行動、介入する能力、想像する能力)が必要なのだ。

 もう一つの謎が昨年夏からずっと考え続けてきた「普遍文法は存在するのか、人間は進化の過程で文法を理解する能力を得たために言葉を早く習得できるのか」ということである。それに対して私自身は疑問を持っていた。言語学、文化人類学、哲学など数冊の本を読むうちに、哲学者ウィトゲンシュタインの「言語ゲーム」にたどり着いた。その結果、人間のコミュニケーション能力が先にあって、それを強化するために言語ができ、人間が習得しやすいように言語が進化した、と考える方がしっくりくることに気づいた。それを後押しするような本が最近出版された。「言語はこうして生まれる」(モーテン・H・クリスチャンセン、ニック・チェイター著)である。サブタイトルは「『即興する脳』とジェスチャーゲーム」である。冒頭からウィトゲンシュタインの「言語ゲーム」が出てくる。本の帯に書かれた有名人のコメントには「画期的」「独創的」「魅力的」と言う言葉が並んでいることからまだ主流ではないと分かる。あっという間に読了し、私が悩んでいたことはほぼ解決した。

 これら2冊の本で述べられていることには共通点がある。それは、まだAIは人間の能力には追い着けそうもないということである。AIが身に着けるべきことは推論することなのではないか。そこまで辿り着ければ、因果関係を見出したり、意味のある会話を楽しんだりできるはずである。私の生きている間にできるだろうか。

 元旦の早朝に注文した本をその日に届けてくれた方々に感謝したい。お陰様で謎が解けてすっきりとして2023年が始められた。ありがとうございました。

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