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日々の生活の中でのリスク管理


2017.05.14


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 昨夜から今日の午前中にかけて暴風雨の恐れあり、というニュースを見て、今朝は一本早いバスに乗った。いつもは軽い折りたたみ傘しか使わないのにがっちりした大きな傘を差し、風雨の中を飛び出したのである。幸い電車に遅れはなく、いつもの時間通りに大学に着けた。しかし、吹き曝しのホームで立っていたらびっしょり濡れるし、雨はあっという間に上がってしまって傘を持て余すし、「もう少し遅く出れば楽に行けたかもしれない」とちょっと残念な思いをした。しかし、暴風雨で電車が遅れる、最悪の場合止まることがあった場合、授業に穴を空けることになる。だから、そのリスクを軽減するために、授業の始まる5時間前(!)に家を出るのだ。何事もなくとも3時間かかる通勤時間なので、2時間は保険である。

 電車でどんなに長く立つことがあっても、決して網棚にバッグを乗せない。これは企業に勤めていた時に受けた「セキュリティ教育」が体に染み込んだ結果である。もしもバッグを失ったら、その影響は計り知れない。それを考えればバッグを体にぴったりくっつけて長時間立つことなど何のこともない。もちろん、重いバッグを網棚に乗せてしまえば楽だろう。立っているのだから眠り込んで取られたのに気づかないということも殆どありえない。しかし、最悪の場合を想定すれば、やはり網棚に乗せる気にはならない。

 私の日常は高い保険をかけすぎているようにも思える。コストパフォーマンスはかなり悪いかもしれない。しかし、効率化はリスクのない別の場面でいくらでもできる。

 ユナイテッド航空のダブルブッキングによる乗客傷害事件が世界中を騒がせている。これは、乗客4名を降ろさなければならないことになり、くじで選ばれた医師が抵抗したため警察が引きずり下ろそうとして大けがをさせたというものである。ユナイテッド航空は世界中の非難を浴びて株価を下げ、被害者の医師から損害賠償の訴訟を起こされる見通しになっている。企業にとっては大打撃である。このニュースを見て、ふと「もしも私がこの医師だったらどうするだろうか」と考えた。前提として、抵抗して引きずり出されるのはまっぴらである、ということを挙げておく。争いは決して生産的ではない。

 まず、大切な診療を控えているなら、前日の夜に航空機に乗ることはしないだろう。ダブルブッキングがなくても、天候の影響で飛ばないこともありうる。日程が決まっている旅行なら、重要な仕事の前々日には帰宅できるようにする。1日は保険である。

 もしも急用があった、その便しか取れなかったなどの理由で前日の夜の移動となった場合はどうだろう。運悪く降りて欲しいと言われてしまった場合、まずは、次の日の仕事の重要度を考える。他の人に任せられない自分にしかできない、重篤な患者の診療かどうかである。もしもそうであれば、何とか別の人に降りてもらうしかない。航空会社が示している弁償金に自腹を切って追加額を乗せるのでだれか代わりに降りて欲しい、と訴える。もちろん、そこまでしてその日のうちに帰宅しなければならない理由ははっきり述べる。それでも誰も代わって降りてくれなかったら、自分の訴えが伝わらなかったと諦める。そして、診療を待っている重篤な患者を代わりに診療してくれる医師を探して、診療を依頼する。重篤な患者を抱えているのなら、自分にもしものことがあっても大丈夫なように、代わりに診療してくれる医師を事前に探し、いざというときの対応をお願いしておくことが前提である。

 暴力的に乗客を引きずり出したユナイテッド航空は許すべきではない。しかし、それに限らずトラブルに巻き込まれる可能性はある。無駄にエネルギーを消費することをできる限り避けるために、保険はかけ過ぎるくらいかけることも、トータルすればコストパフォーマンスがよいのではないだろうか。



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