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高齢者には支援よりも協力が有益だ


2022.11.13


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 毎年11月に行っていた秋の一人旅を3年ぶりに再開した。今回は5年前に辿った北陸の地を前回とは逆に巡った。体力は明らかに向上していると実感した。やはり毎日2時間強のウォーキングは有効だった。以前履いていたスラックスのふくらはぎの部分がパンパンになっている。むくんでいるわけではない。筋肉がついているようだ。

 私の一人旅はいつも同じパターンである。まず行先を決めてそこにある使い慣れたビジネスホテルを予約する。あとは必要最小限の新幹線の切符を「大人の休日・ジパング倶楽部」を使って3割引で購入するだけである。細かい訪問先はガイドブックを見たり、テレビの旅番組を参考にしたりしてイメージするが、最終的には現地で天候や体調を見て決定する。もちろん、ローカル線の切符は現地で買う。

 一見旅慣れているようだが、実は現地では結構もたもたしてしまう。今回は、ローカル線の切符を買おうとして券売機のところに行き、掲示されている路線図で運賃を確認して画面を見たがその値段のボタンがない。慌てて別の券売機に行ってみるがそこにもない。駅員さんに聞こうかと思ったときに、脇に路線変更のボタンがあるのに気づく、といった具合である。人が並んでいたら絶対に舌打ちされるだろうが、幸いにも誰もいなかった。

 ビジネスホテルでの朝食バイキングでも同じである。コロナ禍で手指消毒とビニールの手袋の装着が加わったとはいえ、形式は同じはずである。しかし、トレイの場所が見つからない、箸やスプーンを忘れる、コーヒーのお替りをするために立ち上がった時にマスクを落として気づかずに歩き回る、トレイを下げるときに箸をゴミ箱に捨ててしまって慌てて取り戻すなど、恥ずかしいことばかりである。見渡せばビジネスマンが多いが、高齢の夫婦連れ、子連れの家族、若いカップル、なども結構いる。皆静かに食事をしている。もたついているのは私だけのようなのだ。どこが違うのか知りたくなった。高齢者の夫婦連れがトレイを下げているところに遭遇したのでそっと眺めてみた。「これはこっちだ」「これはこちらね」と相談しながら食器を片付けている。協力することでもたつきがないのだ。

 思い当たることは多い。一人が何かに集中しているときにもう一人が別の場所を見ていれば発見は早い。ローカル線の券売機でも二人いれば一人が運賃のボタンを探しているときにもう一人は行く先切替えボタンに気づける。街歩きで今回も何度も経験した「道を間違える」行為も、二人で歩いていれば多分なかっただろう。

 ビジネスの世界では以前から分かっていたことである。例えば情報システムの開発において、工程を分けて自動化を進めていけば効率は上がるが、複雑な要求に柔軟に対応することはできない。スキルのある人が一人で全てが行えるようにすれば効率が上がるように見えるが、一旦難しい局面にはまり込むと抜け出すことが困難になり却って生産性が落ちる。複数の人間が協力し合うことで打開が可能になる。

 高齢者には支援が必要と普通は考えるが、本当に必要なのは支援されることではなく協力しあうことではないか。間違える前に教えてもらえれば失敗はなく楽である。しかし、考える力は養われなくなる。協力し合うことで双方が頭を使い、結果として効率は上がる。高齢者のために、支援ロボットではなく一緒に考える協力ロボットが開発されることを望む。  

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