DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を見ない日はない。デジタル化でビジネス変革、組織変革というメッセージが世の中に溢れかえっている。ふと1990年代初めのBPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)ブームを思い出す。これも情報技術でビジネス変革、組織変革を狙っていたものだった。オフィスでパソコンすら使われていなかった当時と今では情報技術が大きく違っているのは確かではあるが、同じメッセージが繰り返されているということは、変革がこの30年間進んでこなかった証ではないのか。
この30年の間に、私は企業でシステムエンジニア、事業企画、人材育成を20年、さらに大学教員を10年続けてきた。特に後半の15年間は企業と大学で人材育成に携わってきた。その間に「組織変革が進まない原因」に関わる人間の振舞の特徴が見えてきた。それは、@ロールモデルを作ってその真似をする Aひとつのアイディアを思いつくとそれに固執する B過去の成功は繰り返されると錯覚する である。順に具体的に述べていく。
一つ目は、企業の研修で気づいたことである。私は研修にロールプレイを取り入れていた。参加者はあるシチュエーションで自分がどう振舞うべきかを考えて役を演じなければならない。これはむしろサイコドラマと言っていいもので、自分で考えて振舞うことから関係性構築の問題点をあぶり出し解決策を考えていくものである。しかし、多くの場合、参加者は自分の役を「それらしく」演じてしまう。部長らしく見せる、部下らしく見せることに注力してしまう。結果としてコントになってしまう。なぜそうなるのか。これは、初めての役割を与えられたとき「ロールモデル」を探し出してその人を真似することが最も近道と考えることによるのではないか。これでは組織の変革もできるはずはない。
二つ目は大学の講義をしていて気づいたことである。どの授業でも毎回テーマを示してレポートを提出してもらう。様々な視点から考えるように、できるだけ複数の案を出すように、と言っても、殆ど一つのことしか書いてこない。しかも、これは良いと自分で思ったものに対しては延々とその素晴らしさを論じてしまう。一方で、多くの人のレポートを集めて眺めてみると視点も内容も驚くほど多様性に満ちている。同じ年代の学生が書いているとは思えないほどである。集団は多様性を持っているのに活かされていないのではないか。
三つ目は「文化がヒトを進化させた」(ジョセフ・ヘンリック)を読んで気づいた。この中で、意思決定に占いが使われた理由は、(ある場所に獲物がいたなどの)過去の経験に引きずられないよう思考をランダマイズするためであるとの記述があったからである。環境条件は刻刻と変化しているのに過去の成功体験から逃れられない人や組織は多い。地位の高い人の体験なら尚更である。古代から人間はそれに気づいていたのだ。
組織変革のために、どうすればこれらの3つの振舞から逃れられるだろうか。
一つ目に対しては、他人の良いところは学ぶが安易にロールモデルを作って真似をしないことが必要と考える。女性が管理職を目指さない理由としてロールモデルがないことが挙げられるが、それは却って組織変革に役立つと考えるべきである。
二つ目と三つ目に対しては共通の対策が考えられる。それは、組織に多様な人を入れて様々な意見を取り入れることである。それにより、個々人の頭は固くとも組織は柔軟になる。人手不足、人材不足、採用が困難であればなおさら、まったく畑違いの人、外国人、高齢者なども仲間に入れることで組織をかき混ぜ、過去の成功体験から脱却できるのではないか。
自分の信念に従って行動する「高い志を持つ、市場価値の高い技術者」を育成します。
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コンサルティングと研修のサービスを提供します。
所長:石田厚子 技術士(情報工学部門)博士(工学)
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組織変革を妨げる3つのこと
2022.11.06