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今最高のぜいたく品とは


2022.08.21


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 今年のお盆の時期をはさんで3週間ほどは、猛暑、コロナ、豪雨のニュースばかりをテレビで観ていた。しかし、その合間を縫って流れてくるのは、観光地に押し寄せる人たち、都会から地方に移動する家族連れ、プールではしゃぎまわる子供たち、盆踊りや花火に感動する人たち、などなど、3年ぶりに行動制限のない夏を満喫する人たちの映像だった。しかし、そのような映像の後には、必ず「発熱外来の混雑」「入院できず自宅療養する人たち」「救急車を呼んでも受け入れ先が見つからず数十時間待たされる患者」「旅先でコロナ感染が判明して足止めされた人」などが報道される。多くの人たちは恐怖と羨ましさが交錯する複雑な心境になったのではないか。私も同じである。

 私の今の不安は新型コロナではない。4回目のワクチン接種は済ませたし、大学は夏休みだし、一人暮らしで家族とは会わないと決めたし、これで感染したら運命と諦めるしかないだろう。しかし、毎日のウォーキングには不安を感じる。熱中症はもちろん怖い。でもそれ以上に怖いのは、後方から集団で自転車に乗って迫ってくる子供たちや若者たちである。友達同士しゃべりながら、あるいは急いでスピードを上げて走ってくる自転車に、歩いている高齢者が見えているだろうか。ここでぶつかって転んで動けなくなったら、果たして救急車が来てくれるだろうか。来てくれても病院に運んでもらえるだろうか。そう考えると、立ち止まって脇によけてやり過ごすしかないと考えてしまう。

 その他にも不安はある。5年前に開腹手術をした腸閉塞の再発である。当時は七転八倒の腹痛と嘔吐の中で自力で救急車を呼んで入院できた。現在はボタン一つで駆けつけてくれる人はいるが、救急車が来てくれるか、入院できるかの方が不安である。そのため、消化の悪いワカメなどの海藻類やキノコ類を食べることを控え、よく噛んで食事ができるよう義歯の調整を頻繁に行っている。さらに、食中毒が怖くて生ものは一切食べていない。それでも生きることを優先すると思えば我慢はできる。でも子供はどうだろう。

 最初に書いたように、祖父母に会いに行ったり、テーマパークに行ったり、キャンプやバーベキューを楽しんだりする子供たちはいる。泊りがけのイベントに参加する小学生の話も聞く。一体、不安を感じないのだろうか。先日、孫の誕生日をZoomで祝ったときに母親(私の子供)に夏休みの計画を聞いてみたら、「怪我をしても入院できないかもしれない状況ではキャンプなど考えられない」と言う返事だった。両親が仕事をしている孫たちの家庭が旅先でコロナに罹って10日も足止めされたら本当に困るだろう。高齢者の私が助けに行くこともできない。リスクをとっても行動できる人たちだけが行動制限のない夏を満喫できるというのが現実なのだ。それを聞いて決心した。コロナが収まったら、孫たちが様々な体験ができる旅行をプレゼントしよう。そのためにお金を貯めておこう。

 今最高のぜいたく、それはモノではなくリアルな体験なのだ。それはリスクのとれる環境にある人しか享受できない。いつかきっと、孫たちに味わわせてやりたいと思う。その日が早く来てくれることを祈る。成長の速い子供が大人になってしまわないうちに。  

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