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なぜ私はネタバレを好むのか


2022.05.15


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 聞いたところによると、最近の若い人たちは、映画やドラマの倍速視聴や(ネタバレを見て)結末を知ってからの視聴が当たり前になっているということだ。その理由として2つの要因が挙げられている。倍速視聴は、限られた時間で多くの動画を見なければならないので時間を無駄にしたくないということである。それで良いシーンのみをじっくり観て他は飛ばす。ネタバレは、ショックを受けたりドキドキするのを避けたいので、あらかじめ結末を知っておいて視聴することで衝撃を受けないようにするということである。この話を聞いたとき、なるほどと思ったと同時にひとつ納得できない点もあった。若い人の特徴というのはおかしいではないか。私は高齢者だが同じ傾向がある。むしろ高齢になるにつれてその傾向が強くなったように思う。

 私はドラマなどを録画やダウンロードして視聴することはなく、テレビをリアルタイムで観る。ただ、2時間ドラマであれば後半の1時間しか観ない。刑事ドラマであれば、始まって1時間後にはほぼ犯人の候補は上がっており、ご丁寧にホワイトボードに被害者と関係者の相関関係まで図示されている。後半でも何度も事件が起こった映像が出るので、事件の経緯はすぐに掴める。後半だけでも十分に楽しめる。これは2倍速で観たのと同じである。なぜそうするのかは明らかである。時間を無駄したくないからである。導入から結末に至るまでの様々なプロセスや登場人物の感情の動きなどはほぼ想像がつくのであえて確認しなくてもよい。伏線や回収で工夫をこらしている作り手の方々には申し訳ないと思う。

 ネタバレも大好きである。朝ドラなどはネタバレサイトを探して見ることもある。理由は若い人と同じである。朝からドキドキ(というよりイライラ)したくないのである。問題が起きれば次の日には解決することは分かってはいるけれど、どう解決するのか予め分かっていたほうが安心できるというわけだ。でもこれには高齢者特有の事情があると思う。

 若い時は日々多くの事態に遭遇し、その度にショックを受け、落ち込んだり狂喜したりした。ただ、次々と多くのショックが押し寄せるので、前にあったことはすぐ心の奥底に沈んでしまった。つまり忘れるのも速かった。70年以上生きてきた現在は、当時ほどショックを受けることはない。様々なことを容認、受容する気持ちが強くなるからかもしれない。ドラマを見たくらいでは若い人ほどショックは受けない。しかし、悪い感情を引きずってしまうのである。「そういえば同じようなことがあった、あれから嫌な思いもした、あれはつらかった、あれは悔しかった」、と心の底にしまってあった不愉快な思い出が芋づる式に引きずり出されてくる。そうすると、気持ちが落ち込みなかなか抜けなくなる。この歳になると心安らかに暮らしたいので嫌な気持ちになりそうなものはあらかじめ知って避けたいのだ。

 若者に共感しながらもあえて言わせてもらえれば、若い人には倍速視聴やネタバレはお勧めしない。時間の無駄だったと悔しがる経験、ショックを受けたりドキドキする経験が良い物を見極める目を養い、新たなものを生み出すきっかけになるからである。時間の無駄遣いは若い人に与えられた特権ではないだろうか。

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