会社を65歳で定年退職して3年半になる。今も大学教員として現役で働いているが、会社との距離はかなり離れている。それでも、様々な会合で、既にリタイアしたかつての上司、まだ現役のかつての同僚や友人たち(いずれもかなり年下)と会う機会はある。そのような時の話題で、ある気になるパターンに気づいた。
まず、現役の元同僚や友人との会話である。彼らはほぼ上級の管理職になっている。そこでの話題は、自分や話題に上った他人が「どこの組織か」「どのような地位か」が中心である。仕事の内容は殆ど語られない。たまに出てくるのは、上司や顧客との関係の難しさ(半分は愚痴)である。私自身が知りたいのは、どういう技術が注目されていて、それをどうビジネスに生かそうとしているのか、なのだが、全く話題に上らない。私は部外者なので守秘義務のためにそうしているのだろうか。機密情報にならない程度の情報を話題にしても問題ないのではないか。要するに「あなたは何をしているのか」が知りたいだけなのである。それは、どこそこの組織で事業部長をしている、でもなく、幹部からの深夜のメール攻撃に耐えている、でもない。
若手の社員と付き合っていた(部下にしていた、という意味)20年以上前には、何に興味を持ち、何を追究し、何を解決しようとしているか、が話題の中心にあったように思う。それこそ、会話の大半が「何をしているか」だった。それが、時を経て幹部社員になると話題が変わる。あたかも関心事が違う場所に移動するように。しかし、組織において権限を持ち、日本のビジネスの将来にも(若手と比べればずっと)影響を与えられる立場にある幹部社員こそ、将来をどう見据えて、それに向けて「何をしているか」を話題にすべきではないだろうか。
一方、リタイアした人たちの会合での「何をしているのか」の話題の中心は、国内や海外の旅行、最近読んだ本、健康法、などなどである。これらは興味をそそるものではあるが、話題がそれだけではちょっと寂しい。やはり、リタイアしても将来の目標を定めて、それに向けて取り組んでいることについて語りたい。具体例を挙げると、「ブロックチェーン」や「人工知能」がリタイアした人たちの中で話題になることがある。たいていの場合、それは単に言葉を知っている段階に止まり、自分たちには関係ないとしてしまいがちである。でも、世の中がどう変わり、それに対してどう対処していくべきか、を考え、次の世代のために何かを行うことはできるのではないか。ただ長生きするのではなく、世の中に何かしらの貢献をしたいではないか。
今後の社会を変えていく若い世代が、何を目標にして「何をしているのか」が語れるということは重要だ。それは、遠くを見据えると同時に足元をしっかり固めることにつながる。しかし、それ以上に、中高年以上の世代が、特に、組織や社会に影響を与えられる立場の人たちが、将来の目標をしっかりと持ち、それに向けて「何をしているか」を語れるようになることこそが重要だと思う。それを見て若手も将来を見据えて努力しようという気持ちになる。決して、「管理職になると大変だから今のままがいい」などとは思うまい。
リタイアした人も含めて全ての世代が活躍できる社会は、「何をしているのか」を語るところから生まれるのではないだろうか。
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所長:石田厚子 技術士(情報工学部門)博士(工学)
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あなたは何をしているのか
2017.04.09