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無知であることを認識しよう


2022.02.06


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 脳の働きの主役はニューロンであるとずっと思ってきた。言い換えれば、ニューロンが分かれば人間の脳の働き方が分かり、それによりAI(人工知能)が人間に近づき、ひょっとすると超えることもできるのではないか、と信じそうになっていた。3年前、グリア細胞の存在を知り、私だけではなく多くの人たちが脳について分かっていなかったのだと気づかされた。きっかけは「もうひとつの脳」(ダグラス・フィールズ著、講談社ブルーバックス、2018)を読んだことである。しかし、その時点では殆ど詳細については理解できなかった。脳科学に関する分かりやすい書物を漁ってみたが、ニューロンのことばかり書いてあり、グリア細胞について述べたものは無かった。ようやく古書で「脳とグリア細胞」(工藤佳久著、技術評論社、2011)見つけて読んだのは2022年になってからだった。再度「もうひとつの脳」を読んでいるが、分かるどころかますます脳というものの働きが分かっていないことを確信するだけだった。

 私たちはどうしても様々な情報を得る際に、自分で納得し腹落ちすることを求めてしまう。そのために「見える化」「透明性」「分かりやすさ」などを要求する。しかし、透明でよく見えてもそれだけで全体が理解できるわけではない。結果として物事を都合よく単純化して捉えてしまう。つまり、一部分だけを見て分かったつもりになるのである。ニューロンの仕組みを説明されるとそれで脳のすべてが分かったつもりになるのはまさにそれである。

 さらに人間は、分かったつもりになった情報が自分の希望するものに合っていると、それを強く信じてしまう。新型コロナウィルスに関する情報などはまさにその典型である。新型コロナなんて風邪と同じ、という意見は2年前からあったが、最近はさらに強くなっている。誰でも風邪と同じと信じたい、軽ければ普通に生活したい、と思っている。でも、データのある一部分だけを見て分かったつもりになっているのは明らかである。我々は、コロナに対してまだまだ無知であることを受け止めなければならない。

 もちろん、全てを理解してから行動しなければならないとなれば、我々は一歩も進めなくなる。だから、迅速に意思決定するために、物事を単純化して素早く理解する必要はある。そのためには見える化は必要であるし、後悔しないためにも納得、腹落ちすることは必要である。そのような時でも、自分は無知であることを認め、謙虚になる必要はある。

 私は新型コロナが風邪(インフルエンザ)と同じとは全く考えていない。2019年までは、インフルエンザに一度も罹ったことがないことを理由にワクチンを一度も打ったことはなく、皮膚アレルギーを理由にマスクは一生かけないつもりだった。しかし今は、必死で3回目のワクチン接種の予約を取り、不織布マスクを2重にかけている。それは活動を止めないためである。定期的に公共交通機関を使った長距離移動をしている。コロナ感染者数増大に伴い、毎回「行きたくない、止めようかな」と考える。しかし、もしも止めたら起きるであろう様々な不都合を考えて、覚悟を決めて行動する。その代わり、感染対策は徹底的に行う。無知であることを認識した上で最大限の努力をする。この繰り返ししかないのだ。



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