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到達ルートはひとつだけではない


2022.01.23


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 最近、ウォーキングがつらくてたまらない。寒さに加えて風も強く、2時間以上歩くのはかなりの苦行である。だから日向の道ばかり選んで歩いて、せめて太陽の暖かさだけは頂こうとしている。雪の降った後などは、凍った道で滑るのが怖くてかなり緻密に日向ルートを探って歩いている。行く先が決まっているなら、できるだけ安全で快適なルートを選ぶのは当然ではないだろうか。

 私の生き方を今振り返ってみると、最初に目標を決めたら、それに向かってできるだけ効率的に、楽な道を選んで進むことを優先してきたように思う。結果として、それほど高い目標には達しなかったが(そこそこ)満足できる場所にたどり着いたと言える。この生き方を選ぶようになった大きなきっかけは、今から五十数年前の「2回目の」大学受験に遡る。

 現役で大学受験に失敗した私は、家族の支援もあって、当時の女子としては珍しく東京の予備校に通って浪人生活を送ることになった。せっかく浪人するなら現役のときより難しい大学を受けようと、最難関の大学の学科を第一志望としてひたすら受験勉強に明け暮れた。その甲斐あって合格圏内に入ることが出来たが、落とし穴が待っていた。実家に帰らずに過ごした正月に風邪をひき、何日間も寝込むことになってしまったのである。ようやく回復した後に受けた模擬試験の結果は目を疑うほど酷いものだった。私は予備校のカウンセリング・ルームに相談をしに行った。

 カウンセラーの先生は、私の過去の成績データを見ながら、一時的に成績は下がったけれどこれから3月までに上昇傾向に持っていければ十分合格できる、と励ましてくれた。それに対して不安がぬぐえない表情の私を見たからだろうか、次の言葉を投げかけてきた。
「ところで、あなたは大学に行ってそれから何がしたいんですか」。
私は答えた。「エンジニアになって企業で新しい製品を開発したいです」。

 カウンセラーの次の言葉は目からうろこだった。「あなたの目標を達成する道は第一志望の学科に行くことだけではないですよ。他にも道はあります」。そして、別の道、すなわち、第一志望ではなくもっと入りやすい別の学科から目標を達成する方法を示唆してくれた。 私は目標達成のために志望校を選んでいたのではなく、大学入試に失敗したことのリベンジのために難関を目指していただけだったのだ。結局、直前になって第一志望を諦めて安全な道を選んだ。それは結果としてかなり有効に働き、最終的に「エンジニアになって企業で新しい製品を開発する」目標を達成することが出来た。

 過去を振り返ることが嫌いな私でも、時々「もしもあのときこちらの道に進んでいたら」と考えることがある。現役で大学に合格していたら、2回目の受験で第一志望に果敢にチャレンジして合格していたら、逆に失敗していたら・・・。結論は、どれをとっても同じになる。多少の違いはあっても現在は同じような生活をし、同じように(そこそこ)満足していることだろう。目標がしっかり定められていれば、辿るルートは違っていても到達できる可能性は高いと心から思っている。



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