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大人になるほど楽になる


2017.03.26


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 「子供はいいなあ、何の悩みもなく遊んでいられて」などと思っている人はいないだろうか。もしもそのように感じることがあったら思い起こして欲しい。本当に子供のころは悩みもなく楽しかっただろうか。少なくとも私はそうは思わない。  私の家は典型的な昭和のサラリーマン家庭だった。母は専業主婦、三人兄弟。金持ちでもなく貧乏でもなく、ごく普通の中流家庭である。それでも、子供時代の思い出は楽しかったことより不安におののいていたことの方が多い。

 幼児の頃は、天井のシミやミシミシとなる音におびえて寝付けなかった。眠っても怖い夢をみては何度も起きることが多かった。幼稚園は周りの子供たちとなじめず、殆ど休んでしまった。小学校では、通学途上で同級生の男の子に小突かれるのがつらかったし、学級委員に選ばれて先生からよくわからない指示をされるのがストレスだった。中学に入れば高校受験が、高校に入れば大学受験が、大学に入れば卒業後の進路のことが悩みの種になった。合間に父親との確執などもあり、早く学校を卒業して自立すれば楽になれるかといつも思っていた。

 私が楽になったと感じたのは、なんと30歳を過ぎてからである。子供もでき、お金や技術士の資格、仕事の経験などのちょっとした蓄えもでき、自立できてきたと思ってからは、波はあるものの、人生に積極的に向き合えるようになった。そして最近は、人生で最も不安や悩みの少ない時期に来ているように思う。神社仏閣を巡っても、自分に関してお願いしたい事が何も見つからないのである。

 楽になれた理由に結びつく要素は二つある。一つは「経験」もう一つは「情報」である。

 初めて海外に出たときは空港に行くのすら不安であったのが、2回目以降は不安が半分以下になった。初めての出張先は遅刻しないように、道を間違えないように、地図を握りしめて不安に駆られながら出かけるが、2回目以降は電車の時刻だけ調べれば済む。これらは経験の効用である。さらに年を重ねれば、類似の経験からの類推で「ああいうタイプの人とはこう付き合っておけば大丈夫」「最初はこんなもんだがもう少し粘ればなんとかなる」などと不安のレベルを大きく下げることもできるようになる。過去の失敗が生きるのも時が経ってからである。

 そして最近顕著に効用のあるのが情報である。心配事があったとき、ちょっと検索すれば山のような情報が流れ込んでくる。一字一句同じような内容が多いし、却って不安を煽るものもあるが、総合的に見ればほぼ全容が掴める。知ることで不安のレベルがぐっと下がる。さらに将来に役立ちそうな周辺情報も得られる。情報の量も質も格段に上がっている。私自身、インターネットのお蔭で30年、40年来の悩みが一気に解決した。

 悩める子供たちに言いたい。これからも不安や悩みは尽きないだろう。でももう少し経てば、経験や情報を得ることで楽になる。大人になることは悪いことではない。



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