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人材は再利用より再生へ


2017.03.19


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 今年(2017年)になって「サーキュラー・エコノミー デジタル時代の成長戦略」(日経新聞出版社)という本を2回読んだ。原題がWaste to Wealth The Circular Economy Advantage であり、帯にもある通り、「無駄」を「富」に変える戦略をテーマにしている。内容は充実しているが、とにかく読みにくい。例に挙がっている企業が聞いたことのない海外のものばかりで想像力が働かないことと、専門用語が多いことが理由だろう。1回目は読むのに1週間かかったが、2回目も同じであった。ただ、2回目を読んでいる間に面白いことに気づいた。この本は、地球と人類ができるだけ長く存続し?栄することを目指しているが、そこでの戦略は、人間ができるだけ長く活躍し続ける戦略に応用できるのではないか、ということである。

 人類が?栄していくにつれて地球環境は弱体化していく。人間も成長していく先で老いていく。さらに人間はより長く働き続けることが求められる。どうすれば100歳まで生きる時代に80歳まで働き続けることができるだろうか。
 本書では、無駄から富を生む「サーキュラー・エコノミー」のビジネスモデルを5つに分類している。
1.サーキュラー型サプライチェーン(再生可能エネルギーの利用)
2.回収とリサイクル
3.製品寿命の延長
4.シェアリング・プラットフォーム
5.サービスとしての製品
 この中で、私は、3番目の「製品寿命の延長」に着目した。製品寿命を人間の働く能力の寿命と考えたらどうだろうか。

 本書では、製品寿命の延長のための6つの企業活動を示している。
[1]高品質で耐久性に優れた製品を創出する
[2]中古品を新品のような状態に復元する
[3]回収・再販する
[4]新たな特性、機能、ファッションを追加してアップグレードする
[5]リフィル(消費される機能の置き換え)する
[6]修理する

 これらを人間にあてはめたらどうなるだろう。まず、[1]であるが、これは充実した教育に相当する。長期間働くことを考えれば、目先の業務に合った知識習得や実務教育ではなく、論理的思考、創造性など永久的に有効な教育が必要となる。

 次に、[2]と[4]と[5]に対しては、キャリアの途中での再教育が相当する。大学に入りなおして新しい専門教育を受けるのが[2]であるのなら、関連知識を習得したり高度な資格を取ったりするのが[4]だろうし、陳腐化した技術を最新の技術へと変えるのが[5]だろう。

 残るもののうち[6]は言うまでもなく健康であり続けるための体のメンテナンスである。[3]は難しいが、自分のスキルと世の中のニーズに合わせて仕事を変えるということに相当するのではないか。

 人間が働くための寿命延長を実現しても働く場がなければ何もならない。元の5つのビジネスモデルに戻って考えて見よう。4のシェアリング・プラットフォームと5のサービスとしての製品にヒントがありそうである。使われていない部屋や車や衣服などとそれを必要とする人を結びつけるプラットフォームのように、スキルのある人とスキルを必要とする職場を結びつけるプラットフォームを充実させることは、働く場づくりに有効である。さらには、働くことを「職場に一定時間いて業務をこなす」こととせず、働く場所を特定せずに価値を提供することと見なせば、通勤ラッシュに見舞われることなく働き続けることが可能になる。

 ここまで来て残る問題はただ一つである。それは、「働く意味、目的」を見つけることである。若いうちであれば、出世する、金を儲けて良い暮らしをする、など目に見える目標が定められやすいが、高齢になるとそれは薄れる。何のために働くのか、自分はどうなりたいのか、を見定めることは、最終的に各個人に委ねられるのである。



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