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因果関係を見出すことの困難さ


2021.07.11


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 植物の生長の速さは驚くほどで、常に気を配っていないと庭は雑草だらけになり、樹木は生い茂ってしまう。築44年の我が家の壁はいつの間にかツタで覆われ、屋根まで浸食してくるようになった。これはまずい、と壁の下をよく調べ、ツタの根元を切って回った。太くてノコギリが必要なものもあった。効果てきめんで、1週間後には壁や屋根に這っていたツタは全て枯れてしまった。何と分かりやすく単純なことなのだろう。しかし、普通の物事はこんなに単純ではない。原因の分からないことは多いし、逆に何かをしたら(理由が分からないにもかかわらず)問題が解決してしまうことも珍しくはない。

 我が家のテレビは購入して14年になるが、結構早い時期からトラブルが絶えなかった。最も困ったのは電源が入らないトラブルだった。毎日のように叩いたり、温めたり、コンセントを抜き差ししたりして、却って壊してしまうのではないかと心配なほどであった。2019年10月の台風でアンテナが倒れ、同時に屋根瓦が崩落した。すぐにアンテナを撤去し、数か月後には火災保険で瓦を修復したが、新しいアンテナは立てなかった。その前に室内アンテナを2000円で購入して十分使えていたからである。しかも、このアンテナを使い始めたらテレビの電源トラブルも解消していた。その後2年近く問題は起きていない。一体、アンテナと電源トラブルにどんな因果関係があるのか不明である。昨年には、キー入力が全くできなくなってしまったパソコンのOSをWindowsからUbuntu(Linux)へと丸ごと入れ替えたら治ってしまったということがあった。これも、未だに理由が分からない。

 テレビの健康番組で、原因不明の症状に長年苦しんできた人が「名医」のお蔭で原因が分かり、通常の生活を取り戻した話をよく観る。病というものは様々な要因が絡み合って起き、専門家である医師にも原因が分からないことは多いのだ。運よく「名医」に巡り合えなければ体の不調と体の状態の因果関係は掴めない。人間の体というものはそれだけ複雑なのだと、いつも考えさせられる。

 1週間前に熱海で起きた土石流による災害は、10年前の東日本大震災のときの津波の被害を思い出させる悲惨なものだった。すぐに土石流が起きた源流とされる場所の盛り土が原因として挙げられた。しかし、盛り土は土石流を引き起こしたきっかけやその被害の甚大化の原因の一つではあっても、土石流の原因はもっと複雑ではないかと思う。もちろん雨量もあるが、その土地の水脈、それまでの樹木の伐採、周辺の宅地造成、その他、我々の知らない様々な要因が複合的に絡み合っているはずである。それらを丁寧に洗い出していかなければならない。原因究明にはかなり時間がかかることだろう。さらに、その先には原因となった問題を解決することが控えている。

 人間は相関関係を因果関係としてしまう傾向があると言われている。相関関係は観察していれば見出せる。そこから因果関係が分かったと思い込んでしまうことは危険である。まして問題解決には結びつかない。因果関係を見出すためには、そこから長い道のりが必要なのだ。何かをする時にはそれによる影響の範囲や大きさも考えておかなければならない。



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