毎週末、同じ時刻に同じ電車に乗って(不要不急ではない用事のために)都心に向かう。コロナ前から2年以上変わらない習慣である。実はこれによって人出の定点観測ができている。例えば、昨年の1回目の緊急事態宣言の時は本当にガラガラだった。その後、徐々に乗客は増え、席は埋まり、立っている人が目立ちだした。
6月の中旬になってすぐ、また前週よりも混んでいることに気づいた。辛うじて優先席が一つ空いていたので座らせてもらった。しばらくして、立っている人たちの中に「お腹に赤ちゃんがいます」の札をバッグに付けている若い女性に気づいた。すぐに立ち上がり、恐縮する彼女に席を譲った。他人に席を譲る日が来るとは予想もしていなかった。
人出が増える理由はすぐに想像がついた。東京都の新規感染者数が(緩慢とはいえ)下がってきているからである。私自身がそうなのだが、毎日数字とグラフを見ると外出の恐怖感が薄れていく。4月には大学の対面授業が恐かったのだが、今では殆ど恐怖を感じない。「緊急事態宣言中」であろうとなかろうと殆ど関係ない。普段の行動は変わらず、マスク、手指消毒、密を避ける、外食をしない、家族とは会わない、だけである。変わるのは気分であり、それを制御しているのが感染者数の変化なのである。
さて、ようやくコロナワクチンの第一回目の接種日が来た。東京の大規模接種会場である。予約時刻よりも大分早く着いたが、人の流れに乗って会場に入り、導かれるままに「予診」「接種」「2回目の接種予約」「経過観察」と進み、丁度30分後に会場の外に出た。本当にスムーズだった。終わった人たちの流れの横をこれから接種する人たちが流れていく。真夏のように暑い日だった。ふと見ると、いすを並べて静かに座っている人たちの一団がいる。ひょっとしたらキャンセル待ちの人たちなのだろうか。それにしても、大規模接種会場は次週以降の予約の空きが何万もあると報道されているのに、なぜキャンセル待ちするのだろう。すぐにその疑問は打ち消された。1日でも早く接種したいのだ。もしかしたらここで待つ人の多くは、地元の自治体や次週以降の大規模接種会場の予約は取れているのかもしれない。でも、次週以降になったら40%、いや50%以上の高齢者が少なくとも1回の接種を終えてしまうかもしれない。後れを取った感はぬぐえない。私だって、「接種は若い人からすべきではないか」、「焦らなくてもいずれは必ず接種できる」などと偉そうなことを言っていながら、7月末までに高齢者全員の接種は終わるようだと報道されるや否や、予約バトルに参戦してしまったではないか。
人間の心理や行動をあらかじめ予測することは不可能である。コロナワクチン接種に関して各自治体の予約の方式や運用方法に批判の言葉が投げられることが多いが、それはやめるべきである。各自治体が地域の医療体制、住民の状況などを勘案して最善と思われる方策を取ったとしても、その後の政府の方針や我々住民の行動変容によって、予期しない事態は起こりうる。柔軟に方向転換して対処していくしかないのだ。
オリンピック開催による人流の変化だって、感染者数と同様、予測できるものではない。
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所長:石田厚子 技術士(情報工学部門)博士(工学)
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人間の行動の変化は予測できない
2021.06.20