2015年はシンギュラリティのブームから始まった。30年後の2045年には人工知能が全世界の人間の知能全体を超え、あとはどうなるか分からない、といった主張が複数雑誌の1月号の特集として組まれたのである。この年は書籍も多く出版された。面白おかしく書かれたものも多かったが、深刻な脅威として主張された書籍も多かった。内容的には、「仕事が奪われる」と言った現実的なものから、「AIに人類が支配される」といったSF的なものまで様々だった。
あれから2年経った現在は、当時とは違った傾向の書籍が書店に多く並んでいる。「人工知能は脅威ではない」といった主張が主体であり、長年人工知能の研究をしてきた研究者の著書が多い。脅威論者への反撃とも言えるだろう。暗闇で『怖い、怖い』と言っている人たちに、『明かりをつけて良く見てごらん。危ないところもあるけれどそれを避けて通れば安全に早く目的地に着けるんだよ』と言っているようなものか。
人工知能が脅威か脅威でないかを論じる前に、前提として明らかにしておかなければならないことがある。「人間の知能とは何か」である。脳の仕組みは分かってきた。しかし、意思、感情、倫理観などの人間が人間として認識される要素との関連は明らかではない。であれば、ここで話は終わってしまう。そこで、一旦これらをオブラートに包んで議論が進められる。
次に論じられるのが、「人工知能には何ができて何ができないのか」である。これは人工知能の研究者の書籍なら専門分野であるので詳細に語られている。2年前との違いはここにある。明かりをつけてよく見れば分かることが示されているのである。しかし、現在できていないことが将来どこまでできるようになるのかは、素人には分かりかねる。
そして結論として語られるのが、人工知能を道具として活用すれば人間はより賢く、より強力になれる、ということである。逆に言えば、人工知能を活用しないことが脅威につながる。具体的には、人口知能に仕事を奪われることになる。これは納得できる。
ここまで来て、最初の前提に戻る。知能とは何だろうか。突き詰めて言えば、人間とは、生命とは何だろうか。これが解明されない限り、人工知能が人間にとって何なのかが分からない。いずれにしても2045年までに解明されることはないのではないだろうか。その時点では私は100歳になっていないので(現在の予定では)まだ生きている。ノストラダムスの大予言ではないが、「何事もなく2045年は過ぎました」というニュースを脳内に投影された画像で観ているかもしれない。
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所長:石田厚子 技術士(情報工学部門)博士(工学)
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人工知能は脅威か脅威でないか
2017.03.05