トップページ > コラム

先端IT人材はどこに行くのか


2020.11.22


イメージ写真

 非常勤講師をしている大学の来年度の授業の準備にとりかかるべく、資料集めを始めた。見つけたのが「IT人材白書2020」(情報処理推進機構(IPA) 社会基盤センター)である。サブタイトルに「今こそDXを加速せよ」とあるように、今話題のDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現できる技術者、つまり先端IT人材の国内動向を調査した結果をまとめたものである。調査は2019年に行われたものであるのでコロナの影響は反映されていない。ざっと中身を見ているうちに、面白い数字に気づいた。

 2019年度のIT人材数の推計値は、125万3千人。そのうちIT企業に勤める人が95万9千人(76.5%)、ユーザー企業に勤める人が29万4千人(23.5%)である。これだけ見ても多いのか少ないのか、変化しているのかいないのか不明である。過去のデータも調べてみる必要がある。IPAの調査に基づく2つのデータを見つけ出すことができた。

 一つは、IPAから2011年3月に出された「グローバル化を支えるIT人材確保・育成施策に関する調査」である。2020年の白書からみて9年前のデータということになる。ここでは、日本のIT人材の推計値が100万人、そのうちIT企業に勤める人が75万人(75%)、ユーザー企業に勤める人が25万人(25%)である。同時期の米国のIT人材の推計値が340万人、そのうちIT企業に勤める人が100万人(29%)、ユーザー企業に勤める人が240万人(71%)である。日本の技術者はIT企業に、米国はユーザー企業に集まっていた。

 もう一つは、総務省の「平成30年版情報通信白書 日米のICT人材の比較」である。その基礎データがIPAの「IT人材白書2017」なので、比較するのには最適である。ここでは、日本のIT人材の推計値が105万人、そのうちIT企業に勤める人が75万人(72%)、ユーザー企業に勤める人が29万人(28%)である。同時期の米国のIT人材の推計値が420万人、そのうちIT企業に勤める人が145万人(35%)、ユーザー企業に勤める人が274万人(65%)である。2020年の白書からみて3年前のデータということになる。

 さて、私が驚いたポイントは次の点である。
@ 2011年から2017年の調査の6年間の差異
・米国ではIT人材が約80万人も増えたのに日本では約5万人しか増えていない。
・米国ではIT人材は過半数がIT企業に流れたが、日本では大半がユーザー企業に行った。
A 2017年から2020年の調査の3年間の差異
・日本のIT人材は20万人増えており、そのままIT企業の増加分になっている。

ここからは私の想像ではあるが、2つの点を挙げたい。
1.日米ともにIT人材はIT企業に流れていくことが最近の傾向と思われる。これは先進的なITの開発と利用が必要となりGAFA(Google,Amazon,Facebook,Apple)のような先端企業に人材が吸収されているからではないか。ユーザー企業では手に余るということか。ただし、日本ではこの動きが米国より数年遅れている。
2.日本のIT人材の育成は加速している。DXが叫ばれて先端IT人材の必要性に気づき、慌てて育成しようとしている様子が見て取れる。ただし、日本のIT人材は米国に比べて人口差を考慮してもあまりに少ない。デジタル化の遅れも、生産性の低さもこれでは解決しないことが予想される。

まだ「IT人材白書2020」の中には驚くようなデータが見え隠れしている。さらに読み込んで整理し、ここにも書いていきたい。



コラム一覧へ