65歳の誕生月に2回目の定年退職をした。その時、複数の人から同じ質問をされた。それは、「これまでで一番幸せだった思い出は何ですか」である。その時の答えは決まって、家族と過ごした夏休み、具体的には、夫と二人の娘が大きな浮き輪で海に浮かんでいてそれを海岸からじっと眺めている自分の姿だった。サザンの曲が流れていた。他にも思い出と言えば、家族と過ごした楽しい日々が連なって出てきたものである。
あれから7年経った現在、なぜか無理に絞り出さない限り幸せな思い出が殆ど出てこない。出てくるのは失敗したこと、自分の馬鹿さ加減にうんざりすることばかりである。例えば、うっかり放った言葉が相手を傷つけてしまったこと、思い込みで間違った道を他人に教えてしまったこと、不注意で大けがをする直前まで行ったこと、忙しさにかまけてつい仕事の手抜きをしてしまったこと、などなど。全くどうしたことだろうか。ひょっとして、コロナ鬱にでもなったのか。でも体は健康で食欲もある。将来について深刻な悩みを抱えているわけでもない。小さな問題は次々と解決している。
盛んに発生するネガティブな思考を分析してみてあることに気づいた。私は決して他者への恨みを連ねているわけではない。すべて自分の行動にかかわることである。そして、過去の問題が今に悪い影響を与えているとも考えていない。つまり何かを後悔しているわけではない。何より、今にうんざりしているわけではない。ひょっとしてこれは、コロナ禍が引き起こした危機意識の高まりではないのか。
生き延びたいという強い思いがあれば、それに対する障害を事前に察知し避けなければならない。長く生きるためには、周囲との関係をよくしておかなければならない。だからこそ、過去の失敗を思い起こし、それを避けようとするのだ。言葉を発する前に受け止め手の気持まで考えよう、思い込みですぐに行動するのではなく考えてから行動しよう、危険な場所や危険な行為には十分注意しよう、仕事を丁寧にすることで信頼を得られるようにしよう、という思いが過去の失敗の思い出を引き出してくる。私は決してネガティブ思考に陥っているのではなく、むしろポジティブに生き延びようとしているのだ。大げさに言えば未来志向で生きることを選んでいるということになる。
かつての70歳代のおばあちゃんであれば、縁側で孫に思い出話などを聞かせていたのだろうが、今の私には過去を振り返ることより将来の楽しみの方に興味がある。例えば来年小学校に入る孫はどんな新しい知識を得るのだろうか。多分私の時代とは全く違った方法で、全く違った内容を学ぶのだろう。一緒に勉強したら新しい世界が広がるかもしれない。
自動運転車やロボットなどの新しい技術は身体の弱点を克服してくれて、いつまでも自由な行動ができるようにしてくれるだろう。VRでこれまで行けなかった海外旅行を気軽に体験できるだろう。ひょっとしたら胃に負担をかけずに美食を楽しむことができるかもしれない。私にとっての未来は過去の思い出よりも鮮やかであり、楽しみである。そのためには早めに危険を察知して回避し、周りと良い関係を築いて長生きすることだ。
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コンサルティングと研修のサービスを提供します。
所長:石田厚子 技術士(情報工学部門)博士(工学)
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ネガティブ思考は未来志向だ
2020.11.08