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コロナ後の世界なんて分からない


2020.10.04


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 「石田さん、前歯欠けていましたっけ?」との突然の声に、台所でつまみ食いを見つかった子供のようにびびってしまった私。「歯医者から周囲の歯4本抜いて入れ歯にしなければならないって言われて嫌だなと思って」。しどろもどろの発言になってしまった。先日行われた毎年恒例の大学の同窓会の一コマである。今年はZoomによるオンライン飲み会になった。久しぶりに声が上げられるとつい大口を開けて近況報告したのがあだになった。

 毎朝鏡を見ているので自分の顔の状態はよくわかっている。でも、どうせマスクをかけて外出するのだからと日焼け止めを塗って眉を描いただけで化粧は終わり。しわもシミも前歯の状態も頭の片隅に残るだけで、対策は後回しである。何だかマスク生活に安住してしまったような。確実なのは、コロナが終息してもマスクを外せないだろうということである。

 半年を超える引きこもり生活では、家にあった古い本(古書でも古典でもない)を読み漁った。さらに、同じ著者の本(殆どが中古)をAmazonで買って読んでいた。最近はまったのは、M・スコット・ペックというアメリカの精神科医で心理療法士の本である。家にあったのは「平気でうそをつく人たち 虚偽と邪悪の心理学」(草思社 1996)だった。人間の持つ悪の心理について感じるところが多かった。そこで同じ著者の「愛と心理療法」(創元社 1987)を買った。有名な本らしいが、軽くてさらりと読めた。自分の価値、自分の時間の価値、について多くの示唆があった。

 スコット・ペックの著書はもう一冊「死後の世界へ」という小説も購入した。Amazonから届いた包みを開けて、中古品とは思えない状態の良さに驚いた。適当にページを開いたとき飛び込んできたのは「ドナルド・トランプ」の文字だった。ひょっとしてこの小説は最近出たものなのか。慌てて発行年を見てみると1996年に集英社から出たハードカバーである。タイトル通りの軽いSFであっという間に読めてしまった。ドナルド・トランプは登場人物ではなく、当時の象徴的な人物像として参照されただけである。25年も前から、あるカテゴリーの人々の代表だったわけだ。こんな発見もコロナによる自粛のお蔭かもしれない。

 最近は、リアルな本屋を覘くこともある。コロナ後の社会とかコロナ後の世界とかについての本が色々出ているのに驚く。まだ終わってもいないこと(コロナ)に対して分析も殆ど行われていないのに、その後なんてどうして分かるのか。起こってもいない地震のその後を想定しているのと大して変わらないではないか。例えば、「大学のオンライン授業についての分析」のような記事をネットで見ることがあるが、単なる感想としか思えない。まだまだ試行錯誤を続け、その結果を分析して「真に有効な大学教育のありかた」を探り出してこそ、コロナ後を語ることができるのではないか。コロナを克服した後には、働き方、家族の在り方、他人との付き合い方、さらには生きる意味までが大きく変わる可能性がある。

 「コロナ後の世界へ」というSF小説をだれか書いてくれないかな。それを25年後の人が読んで何を思うだろうか。そこにはまたドナルド・トランプが登場しているかもしれない。あるカテゴリーの人々の代表として。



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