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ブロックチェーンは社会の仕組みを変えられるのか


2017.02.12


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  毎年1月半ばから3月半ばまでの大学の講義のない時期は、次の年度の講義のための仕込みをする。旬な技術的トピックスについての書籍、それも最新の出版物を買いあさり、読みまくって、情報システム関連の授業の資料を作成するのである。一昨年はAIを大きく取り上げ、昨年はビッグデータ、ブロックチェーンなどを加えた。今年もこれらの3点は外せないので、自分の中にあるとらえ方や理解度のバージョンアップを行っている。そこで気づいたのが、ブロックチェーンについての情報がこの一年でかなり変わってきているということである。

 昨年(2016年)のブロックチェーンの話題はビットコインが中心であり、その仕組みの紹介に終始していたように思う。つまり金融のIT化であるFinTecの代表選手のような扱いだった。しかし、今年(2017年)はかなり様相が違う。ブロックチェーンの中でビットコインは「先駆者であり金融のひとつのアプリケーション」という立場まで小さくなっている。さらに、ブロックチェーン自身は社会の仕組みを大きく変える存在であるとの認識まで示されているのである。階層化された社会から真にフラットな社会へ移行させるインフラストラクチャとしての存在である。

 これまでは、インターネットが階層化された社会からフラットな社会への移行の原動力となるとされてきた。確かに、時間と距離の問題は解消され、世界中の大多数が同じ情報を共有することができた。しかし、(多くの書籍で述べられているのだが)インターネットの世界を牛耳っているのは、Google、Amazon、Facebook、Microsoft等のごくわずかの超大企業であり、それらを頂点とするピラミッド構造は厳然として存在する。富める者と貧しい者の格差は広がる一方である。やはり、管理するものと管理されるものの関係は変わらず、全くフラットな社会の実現など覚束ない、というわけである。ブロックチェーンが真にフラットな社会を実現できるという根拠は、「管理する立場にあるものが存在しない」、「情報が完全に分散され共有されている」という前提にある(と、これも多くの書籍で述べられている)。かなり説得性がある。

 もう一つ目立った変化は、リスクのとらえ方である。2016年は、管理されない通貨が犯罪に利用されるなどのマネーロンダリングや、セキュリティリスクが多く取り上げられていた。今年になると、それらに加えて、ブロックチェーンを構成していくときのエネルギー消費量、つまりコンピュータ・リソースの消費する電力量と環境への影響、もリスクとして挙がってきている。当然、ブロックチェーンを維持することのコストには消費電力が含まれているのである。果たしてこの地球はブロックチェーンで運営されるフラットな世界を維持できるのだろうか。

 社会のニーズが技術を生み出す力よりも、技術の進歩が社会の仕組みを変える力の方がずっと強くなっているということは事実である。しかし、実現のためには新たな課題が生ずる。さてブロックチェーンはどのような発展をしていくのだろうか。



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