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小市民の小さな冒険


2020.07.19


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 久しぶりに時間を忘れて読みふけった。一冊の本で考え方がガラリと変わったのも何十年ぶりだろうか。「シベリアの旅」(コリン・サブロン著、共同通信社、2001)である。原著の出版は1999年であるから、ソビエト連邦が解体して数年後のシベリアを鉄道、バス、船、ヒッチハイクで訪れた紀行文ということになる。危険も伴う放浪の旅である。現地で会った人々について、妙な感情移入をすることなく淡々と描いていることが却って心に響く。

 これまで、危険な地域に行くジャーナリストに対して否定的な見方をしていた。頼みもしないのに危険を冒して他人に迷惑をかけているだけではないか、と考えたこともある。ところが、自分には絶対に行けないと思われる地域に行き、絶対に会って話ができない人に会ってその生の声を聴いて伝えることが、これほど相手(つまり読者)の心に刺さるものなのか、と気づいたとき、ジャーナリストたちの気持が理解できたような気がする。しかも、この本が書かれて20年後の現在では、地域の状況も人の考え方も大きく変わっているだろうから、二度と体験できない歴史的な事実を伝えていることにもなるのだ。

 家に引きこもって読書とパソコンに向かうだけの高齢者にとっては、冒険など夢の話なのだが、小市民には小市民なりの冒険もあることに気づいた。オンライン申請である。マイナンバーカードを使って特別定額給付金の10万円を早々と手に入れた私は、当初予定していた旅行は諦めて、アマゾン川流域でショッピングを楽しんでいる。さらに「マイナポイント」の登録もしてみることにした。それが小さな冒険の始まりだった。

 私のスマホは対象機種から外れているのでパソコンを使うことになった。キャッシュレス決済サービスを決め、予約方法を良く調べ、マイナンバーカードとICカードリーダーの準備を整えた上で「マイキーID作成・登録準備ソフト」をインストール開始。詳細は省略するが、なんだかんだとあちこち彷徨ってどうにかインストールできた(様に見えた)。

 いよいよマイナンバーカードの読み込みである。すぐに4桁のパスワードを求められたので入れてみたが「違う」とはねられた。たった2か月前にこれで特別定額給付金の申請ができたのに何故?ともう一度入れてもだめ。焦って再度入れたらパスワードはロックされてしまった。「市役所に行ってロックを解除してください」とのこと。大雨の中を市役所の出張所に出向き(天候のためか人が居なかった)ロックを解除してもらった。

 さて、緊張の中、再度トライである。まず、マイナポータルでパスワードが正常であることを確認し、いよいよマイナポイントのアプリを立ち上げる。カードを差し込んで落ち着いて4桁のパスワードを入力したら、何と3桁(***)しか入っていない。すぐにキャンセルし、今度は深呼吸してパパパパっと一気に4桁を入れた。通った。後は、順調に決済サービスの登録に進み、最後にまた深呼吸とパスワード入力。通った。血圧は急上昇だ。

 毎年の確定申告でもマイナポータルでもマイナンバーカードは順調に使えている。利用者が多いのでアプリも枯れてきているのだろう。一回限りのアプリの改善は期待できない。せめてパスワード入力の機能を見直してもらえないだろうか。市役所に迷惑がかかるので。



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