自慢することでもないが、長年私はマスクをかけていなかった。ついでに言えば、外出から帰って手を洗うこともよく忘れた。うがいなど殆どしたことがなかった。理由は、生まれてから一度もインフルエンザに罹ったことがないので、危機意識が欠如していたからと思われる。それが今では、一歩玄関を出ればマスクをかけ、帰宅時には、孫が来た時のために買っておいて普段は見向きもしなかったハンドソープでごしごし手を洗っている。
5月の半ば過ぎ、朝、鏡を見て驚いた。顔の上半分が日に焼けて真っ黒になっていたのだ。下半分は白っぽい。まるで海外アニメのちびっこギャングである。マスクをかけての毎日2時間のウォーキングのお陰だ。これではコロナ禍が収まって家族と会った時に笑われてしまう。その日から、大きな帽子で顔の上半分を隠し、大きなマスクで下半分を隠した怪しげな老婆になった。3週間ほどしたら、顔の上下の境目が消えた。
さて、6月になって怪しげな老婆のマスクと帽子の下には大量の汗が流れるようになった。どのウォーキングコースにも木陰とベンチのある場所があって、しばらく休むことにしている。そこでマスクを外してタオルで顔を拭く。しかし、マスクをかけるとすぐに滝の汗である。しかたなく、マスクを外して左手にぶら下げ、右手にタオルを持って歩くことになった。これは、「私はマスクをかけることを拒否しているのではなく、暑いので顔に風をあてているだけですよ」というアピールである。ちょっと面倒くさい。
夏日が続き、テレビでは熱中症とマスクの関係について報道するようになった。マスクをかけていると熱中症のリスクが高まる。しかも新型コロナと熱中症の症状はそっくりだという。つまり、これまでなら「強い倦怠感を覚え高熱が出た」と聞けばすぐに熱中症を疑ったのだが、コロナ感染も疑わなければならないということだ。これでは医療機関も大変である。熱中症で医療従事者に迷惑をかけるわけにはいかない。マスクをかけたウォーキングはかなり危険な行為ということになる。
数日前、いつものように帽子とマスクの怪しげな老婆はウォーキングに出たのだが、抜けるような青空と日差しの強さに急に不安になった。数分後県道に差し掛かったとき、急遽予定を変更し逆の方向に歩き始めた。そのまま近くのスーパーに入り、野菜と豆腐と冷や麦を買って家に戻った。30分もかかっていない。この日の気温は30度を超えたようだ。結局、エアコンをつけて、次の日にしようとしていた用事をすませた。この選択は正しかったと思う。毎日同じ生活パターンなどありえない。見直していかなければならないときなのだ。
今年になって、想像したこともなかったことが頻発している。夏のマスクもそのひとつだ。柔軟に受け止めてうまく適応していくしかない。考えてみれば、家族を含めて誰とも会わない日が何か月も続いても結構楽しく生活しているし、大学の授業もオンラインで予想以上にうまくいっているし、難しい本も随分沢山読めているではないか。
人間は環境に適応してくことで進化し続けられる。元に戻る日を待つのではなく、よりよい生活に変われることを望む。
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コンサルティングと研修のサービスを提供します。
所長:石田厚子 技術士(情報工学部門)博士(工学)
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夏とマスクの出会い
2020.06.14