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あなたはまだロールモデルを求めるのか


2020.03.22


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 暖かな平日の昼頃、近くの県立公園では、桜の木の下で多くの家族連れがビニールシートを敷いてお弁当を広げていた。子供たちはボールを蹴ったり縄跳びをしたりしてはしゃぎまわっている。遠くではリコーダーの合奏の音色が聞こえている。新型コロナウィルスの影響で学校が休校となっても、工夫しながら何とか安全な方法で生活を楽しんでいこうとする様子が見られてほっとする。

 朝のニュースバラエティーの中で、あるコメンテーターが、日本中の人が自分の置かれた環境の中でどう行動すべきか自ら考えるという習慣ができればよい、という意味のことを述べていた。これには私も大いに共感できた。ところが別のコメンテーターが、政府はもっと具体的に行動を指示してくれないとどうしていいか分からない、という意味の発言をしたので驚いた。自分で考えるよりも誰かに教えてもらう、指示してもらうことを望む人がまだいるのか。でも同じような考えは依然として多いことにも気づいた。

 女性の活躍、女性の管理職を増やす、といった話題が出るときに必ず顔を出す言葉が「ロールモデルがない」すなわち、女性が活躍していくのにお手本になる人がいない、ということである。この言葉を聞くと、一体どんな人をロールモデルと呼ぶのか、と疑問に思う。私にはイメージできない。少なくとも私自身は、50年近く働いてきて管理職も経験して子供も育てたが、ロールモデルにはなれない。なぜなら、働き続けている(もう中年の)娘たちですら、「お母さんの頃とは時代が違う」「お母さんのようにはなりたくない」と言うばかりで、ロールモデルどころか三葉虫の化石ぐらいにしか思っていないからである。

 考えるに、働く女性にとってのロールモデルとは、もっと具体的な行動を教えてくれる同性の人なのだろう。部下にどう声をかけるか、子供を保育園に預けられるようにするにはどうしたらよいか、産休や育休明けに元の仕事に戻れるようにするにはどうするか、などなど。残念ながら私ごときの三葉虫の化石には答えられない。でも私はこうして働き続けてきた。常に自分の頭で考えて、工夫して、もがいて、はいつくばって。まあ三葉虫ですから。

 ここからが本題である。ビジネス界では終身雇用制度は崩壊しつつある。AIによって仕事の内容は大きく変わる。個々人が自分のキャリアパスを真剣に考えて若いうちから行動しなければ、100年間の人生は天国と地獄ほどにも変わってしまう。当然ながら、人材育成やマネジメントの方法も大きく変わらなければならない。そんなときのお手本なんてどこにあるのだ。自分の頭で考え、現状を打破していく以外にどんな道があるというのだ。

 私にも「女性初の○○」などと言われた時代もあった。当時の管理職は部下をどなりつけ権力で支配するのが当たり前、女子社員を侍らせて私用を言いつけるのも日常茶飯事だった。これはできない、やりたくない、と思った私は自分で納得のいく行動しかとらなかった。上司からはリーダーシップが不足しているとの指摘もあったが、大半の管理職の行動がリーダーシップの発揮とは思えなかったので気にしないことにした。結果はともかく自分を貫いたことには満足している。三葉虫のつぶやきにすぎないので無視して結構だが。



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