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問題解決にメソドロジーは必要か


2017.01.22


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 三年前まで勤務先の企業でコンサルタント育成研修を実施していた。技術(主としてIT)のコンサルタント育成である。初期の頃(10年ほど前)は、「経営」や「業務」のコンサルティングよりもITを含む「技術」のコンサルタントになる方が楽だと思っていた。なぜなら、話のきっかけになる技術や製品があるからである。少々口下手でも自社の開発した技術や製品について情熱を込めて説明すれば相手は(ある程度は)聞いてくれる。後は、「相手の立場に立って考える」「相手の話をよく聴く」「相手に分かる言葉で話す」などのコンサルティングマインドをロールプレイなどで体感させる研修をすればよかった。

 しばらくして流れが変わってきた。技術コンサルタントではなく(お客様の課題の最適な解決策を広い視野で提供する)ソリューションプロバイダとなることが求められ、それに応える研修に変えていかなければならなくなったのである。受講する技術者の中にはMBAを取るべく大学院に通っている人も出現するようになった。すると、ロールプレイ中心の研修であるのに、「メソドロジーは教えないのか」とか、「どのような解決策が正解なのか教えて欲しい」といった意見や感想が寄せられることが多くなった。その裏に潜むのは、メソドロジー(PPM分析とかSWOT分析とか5Forcesなど)を使えば正しい解決策が出てくるはず、という思い込みではないか、と思われた。最初の頃は、「メソドロジーから自動的に解決策など出てこない」「解決策はお客様ごとに異なるので正解などない」と突っぱねていたが、最期の1年間は(力尽きて)PEST分析、PPM分析、SWOT分析の3つのメソドロジーの使い方を教えてそれに基づく分析をさせる時間を設けることにした。

 最後に勤めていたコンサルティング会社では外資系コンサルティングファーム出身者が多く居たが、彼らが上記のメソドロジーを使って解決策を導き出しているのを見たことがない。一人に聞いてみたところ、分析には殆ど使わないけれど、お客様に説明する資料に入れておくとお客様が納得するので後付けで図を描いているとのことだった。多くの人たちは、コンサルタントはメソドロジーを使って現状を分析し、将来を予測し、解決策を提示している、と思っているようだ。そこで、メソドロジーを使った形跡を示せば安心するのだろう。しかし実態は違っている。

 メソドロジーが解決策を授けてくれるわけではない。解決策は実はお客様自身が持っていて、それをうまく引き出して伝えてあげるのがコンサルタントの仕事である。それによってお客様は自分自身が答えを見つけ出したと思い、実現の意欲をもつことができる。メソドロジーは、頭を整理するツール、伝えるツールとして使えると考えるのがよいのではないか。あってもよいが、必要とまでは言えないと思う。

PEST:Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)
PPM:Product、 Portfolio、Management
SWOT:Strengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)



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