お気に入りの大型書店でつい夢中で立ち読みをしていたら思いの外時間が経ってしまった。もう買うしかない。税込3960円は高額だがそれだけの価値はあると判断した。「文化がヒトを進化させた」(白揚社 2019年)である。著者はジョセフ・ヘンリックというハーバード大学人類進化生物学教授 兼 ブリティッシュコロンビア大学心理学部・経済学部教授である。しかも、過去には航空機メーカーのエンジニアをしていたという経歴の持ち主でもある。その多様な知識と研究の成果をベースにした理論展開は非常に分かりやすい。
ここでこの本について解説するほどの力は私にはない。ひとつ納得できたことを挙げるとすれば、人間は「文化」の進化に駆動されて「遺伝的進化」を遂げてきたということである。具体的には、どこかの時点で生み出され蓄積されてきた「文化」を学ぶことで絶滅せずに生き延び、それができるように遺伝子も適応進化してきた、ということである。我々は、生まれたときから自然に多くの人から(理由は不明だが生き延びるのに最適と思われる)振舞いを真似し、それを行動の規範としてきた。重要なのは、多くの知恵を真似ることである。そのためには大きなコミュニティとコミュニケーション能力と知識の蓄積が必要である。だから脳の容量を大きくし、言語が扱えるようになった。そこから新たな文化も生まれた。「遺伝的進化」は次の「文化の進化」を生み出していくのである。
さて、本書を読む前に、私は2冊の(歯ごたえがありすぎて歯が折れそうになった)本を読んでいた。「スーパーインテリジェンス 超絶AIと人類の命運」(日本経済新聞出版社 2017年)と「ネアンデルタール人」(青土社 1998年)である。後者を読んでいて疑問だった『ネアンデルタール人はなぜ絶滅したのか』についての「文化がヒトを進化させた」の答えは、気候変動などによって大きなコミュニティが作れなかったため、せっかく人類よりも大きな脳を持ちながら文化の進化が果たせなかったということになる。では前者の最大の課題である「人類の知能を超える超絶知能が実現したとき、人類はそれを制御できるのか」については、答えがあるのだろうか。
どこかの時点で超絶知能の実現は可能だろう。それを人間が行うとすれば、人類の進化のように世界中の知識を連携統合させて実現するはずである。ここで問題になっているのは人間が持つ「価値観」「倫理」「動機付け」を超絶知能に(外部から)与えられるかということである。「文化がヒトを進化させた」によれば、「価値観」「倫理」「動機付け」は進化のために、言い換えれば人類が生き延びるために必要な物であって、決して外部から与えられてはいない。人間は人間が子孫を増やして絶滅しないためにこれらを行動の規範としてきたのである。であれば、人間の進化と同様に進化してできた超絶知能もまた、自分たちが絶滅しないための行動規範を自分で作るはずである。外部から与えることは無理だろう。
いずれは超絶知能によって人類は絶滅させられるかペットとして飼われるかだろう。AIの研究を止めても無駄である。どうせ宇宙のどこかから超絶知能がやってきて、人類は同じ運命を辿るはずである。何億年後かは分からないが。これはあくまでも個人的妄想である。
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所長:石田厚子 技術士(情報工学部門)博士(工学)
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人の進化のようにAIが進化したらどうなるだろう
2020.01.26