年に2回の学生研究発表(ポスターセッション)の日、私は、研究室の学生(10名前後)の全てのポスターを掲示場所の番号順に研究室の机に並べる。学生は指定の時間が来るとそれを一人ずつ受け取って会場に向かう。私はそれを送り出して、別の学生たちの卒業論文発表の指導に入る。これは大学の規則に従っているわけではない。教員のすることは発表資料作成の指導までで、ポスターを印刷し、保管し、掲示するのは学生の仕事である。印刷されたポスターを前日に預かって当日並べておくのは、発表当日に発生する印刷トラブル、印刷したポスターの紛失や破損、掲示場所の混乱などによる時間の無駄をなくしたいからである。それによって、学生は本来のプレゼンテーションの内容に集中することができる。私の手間は並べる行為に対するたったの1,2分である。
会社勤めをしていた頃、最も時間の無駄と思われたのが手間を惜しんだことによる手戻りだった。
例えば事務方から何かの書類を出すように現場の技術者にメールを送る。忙しい技術者は内容をよく吟味せずに適当なものを返送する。それに対して、出し直すようにメールが飛ぶ。現場が反発してメールを返す。この意味のないやり取りが延々と続く。なぜ、最初の段階で、意図をきちんと説明した上で依頼をしないのか。たった1分間の手間を惜しんで、複数の人の貴重な時間が奪われている。
会議にいつも遅れてくる人がいる。資料が間に合わないとバタバタと走り回り、プリンタの周りに失敗した印刷物が散乱している。無駄な印刷を繰り返したのだろう。さらに、他人を待たせることで、彼らの時間をも奪っている。時間を見積もる少しの手間で多くの無駄な時間が救われるのに。
工場などの生産現場の生産性は機械化により大幅に向上した。ロボットの導入がさらに生産性を上げることだろう。一方で日本のホワイトカラーの生産性はかなり低い。とくに機械化できない人の直接関わる仕事の生産性は著しく低いと思っている。さらに問題なのは、バタバタとトラブル対策をしていることが仕事であると勘違いしている人が多いことである。それは仕事ではなく時間の無駄である。その無駄が仕事の生産性を落とし、長時間残業を生み出す。ちょっとの手間で、トラブルや手戻りは減らせるはずである。1分の手間で何時間もの時間が浮く可能性がある。
ところで、私のしていることは学生を甘やかしているように見えるかもしれない。しかし、学生の自主性を促す教育はその先である。本当に自分の責任でトラブルが起きたと実感しない限り、学ぶことはできない。
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コンサルティングと研修のサービスを提供します。
所長:石田厚子 技術士(情報工学部門)博士(工学)
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無駄な仕事を無くすための少しの手間
2017.01.15