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古い本を楽しむ


2019.11.24


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 歴史的価値のある古書などではない。文字通り「古い本」が我が家には沢山ある。断捨離の一環で一気に捨ててしまおうと思ったこともあるが、スライド式の本棚はびくとも動かず、本が詰め込まれたプラスチックの収納ケースを持ち上げる体力もなく、そのままになっていた。最近(目と腰の不調の原因ともなる)パソコン漬けの生活にも飽き、ぼんやりと背表紙を眺めていたら、結構面白そうな本があることに気づいた。発行年を調べると1990年代半ばから2000年代前半である。亡き夫が定年を迎え、暇に任せて話題の単行本を買い集めて読んでいたのだろう。何冊か取りだして読むことにした。

 まずは、「生命最初の30億年」(2005年)、「ネアンデルタール」(1996年)、「天皇家のふるさと日向を行く」(2000年)そして「5000年前の男―解明された凍結ミイラの謎」(1994年)である。いずれも読み応えがあり、お宝を掘り出した気分になった。

 特に印象に残ったのが「5000年前の男」である。これは、1991年にアルプスで見つかったミイラ化した遺体(アイスマン)の考古学的な調査結果とそれに基づく出生地や死因などの推定についての報告である。写真が多く掲載されており、実際に調査にかかわった研究者の報告でもあるので、当時としては信頼できる内容だろうということが見て取れた。そうなると、28年後の現在までにもっと進んだ科学的調査がなされているはずである。Wikipediaを見てみたところ、確かに、2012年には解凍調査が行われ、DNA鑑定も行われていた。「5000年前の男」の内容と比較してみると、外見的な面はもちろん、かなりの部分が1991年当時の調査結果と一致していることが分かる。ただ、死因が凍死ではなく、矢で射られ、さらに殴られ、とどめを刺されたことによる失血死であることが新たに分かったようだ。2013年にはアイスマンの子孫の可能性のある人まで見つかったそうだ。こうしてみると、ドラマの「科捜研の女」を観ているようでドキドキしてしまう。

 面白い物を見つけてしまった私は、動かなかったスライド式本棚を何とか動かし、さらなる面白そうな本を探すことにした。何冊か引っ張り出した中でも、「現代怪奇小説集」(立風書房、1994年)はちょっと不思議な本だった。これは1988年に初版が出ていて、我が家にあったのは第5版である。689ページもある単行本だが、文字が小さく、紙は茶色く、私が子供の頃の本のようである。さらに、定価2680円(本体2602円)とカバーに書いてあるところを見ると、消費税が3%だった1997年3月までこのカバーは使われていたわけである。さて買ったのはいつだろうか。残念ながら「バーゲンブック 1000円」のシールが貼ってあるので分からない。10年以上前であることは確かだろう。

 老眼にはきついが「現代怪奇小説集」を夢中で読んでいる。この本を夫が買ったのか私が買ったのかは不明である。短編集だが、読んだことのある話と初めて読む(ように思える)話が半々なのである。有名作家の短編を集めたものなので、別の全集等で読んだことのあるものが多く入っていてもおかしくはない。色々なことを考えながら読書にふけるなんて、時間のある高齢者ならではの楽しみである。さらなるお宝も探してみよう。



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