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成功事例はどこまで役に立つのか


2019.10.27


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 日経ビジネスの2019年10月14日号の特集は「トヨタも悩む新50代問題 もうリストラでは解決できない」だった。最初に「働かない50代」の調査結果が示される。続いて、「目覚める中高年」を作るための各社の取り組みが書かれている。役職定年後の働き方や50代抜擢、定年廃止などである。次に、働く人の側からの取り組み事例としてキャリア再考、学び直し、副業の事例が挙げられる。そして、これらを後押しするような有識者の意見が書かれている。なお、日経ビジネスの2019年10月21日号の特集は「さびつく現場力」である。こちらも、日本企業の現場で起きた問題とその背景にある労働環境、経営環境の変化をまず示して問題提起をし、後半で現場力復権のための各社の取り組みをあげている。

 実は、定年後の生き方の指針を示す本や、健康長寿のためのノウハウを教える本も同じような傾向にある。もっと言えば、血圧や血糖値を下げる、お通じをよくするサプリメントの通販広告もよく似ている。いずれもまず問題提起、あるいは脅しをする。統計データや有識者の意見を書いて信ぴょう性を高める。その上である種の分析をしてその問題の原因を明らかにする。ではその解決策は、というと「解決に成功した事例」の列挙となる。これと同じようなことをすれば問題は解決するというのか。そんなはずはないと思うのだが。

 このような記述の仕方は、ジャパン アズ ナンバーワン ともてはやされて日本企業の研究がされたころからもう何十年も変わっていないように思える。研究論文であれば、もっと詳細に成功した企業の様々な環境条件を分析した上で、その成功要因を挙げるということをするのだろうが、雑誌や一般向けのビジネス書では、「きいたことのあるあの有名企業」の「どこかの部門で導入してうまく行った」だけの事例を列挙しているとしか見えない。まさに「あくまでもその企業独自の見解です」とでも示すべきものだと考える。なぜなら、成功事例の裏に何万もの失敗事例があることを忘れてはならないからである。ビジネス書に書かれた成功事例を鵜呑みにして会社のシステムを大きく変更し、多額の投資をしてしまう、なんてことがあればこれは大ごとである。

 さらには、たとえ成功要因を詳細に分析した結果が示されたとしても、今後、同様の環境条件が続くとは限らない。災害でも、世界経済でも、予測不能の事態が頻発している現代では、過去にうまく行った事例だけを見ていても将来への対処は難しいと言わざるをえないだろう。事例はあくまでも参考であり、自社の取組は自社の実体をよく分析した上で自分たちで考え出さなければなるまい。

 小さな話で恐縮だが、新しいプログラミング言語の勉強やRaspberry Piの使い方など、引っかかることがあるとGoogleさんのお世話になって多くの人の対策を読む。その通りにやってうまく解決することは殆どない。その人がうまくいったときの環境と私自身の現在の環境が違っているからである。結局はいくつかの対策と現象を総合して自分なりの解決策を試しながら進むしかないのだ。定年後の起業だって、地方への移住だって、うまくいくのは本当にわずかな確率だろう。自分の人生は自分で切り開かなければ。



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