もう50年以上前、私が20歳の時である。中学時代から文通していた女友達から最後の手紙が届いた。親が決めた地元の人と結婚することになったので、もう手紙は寄こさないでくれ、という文面だった。就職して2年目の夏、有給休暇を使って南九州を旅した。ユースホステルと国民宿舎を利用する旅で、同年配の若者たちと多く出会った。同室になった会社員の女性二人組とはすぐ仲良くなった。「結婚したらもう旅行などできないので今の内に色々なところに行っておきたい」と言っていた。その後私が結婚したとき、夫の親戚から「実家に頻繁に帰るお嫁さんは問題が多い。あまり実家に帰らないように」と言われた。いずれも、私にとっては珍しい話ではなく、当時の女性たちのよくある言葉にすぎなかった。私の世代では、結婚すること、子供を産むことは当たり前であり、結婚したら自分の自由というものは無くなる、というのが常識だった。
私自身は3人兄弟の長女である。母は専業主婦だった。私たち兄弟の着るものは下着から冬のコートに至るまで母がほぼ手作りした。サラリーマンの給料ではこれ以上子供は増やせない、人口を2人から3人に増やしたのだからこれで勘弁してもらおう、と常々言っていた。でも我が家は近所からは豊かと思われていた。周りには給食費の払えない子、ぼろぼろの服を着た子は沢山いたし、慢性の病気を持った子も多かった。
今、少子高齢化が問題となっている。少子化を止めたいという声は大きい。しかし、かつての子供が沢山いた戦後の時代の家族への回帰を求めるように見えるのは気のせいだろうか。それが多くの女性たちの犠牲の上に成り立っていたことを、皆忘れているのではないか。私は子沢山時代の真っ只中に生まれた団塊の世代であり、当時の大人の常識を叩き込まれて育った。だから、結婚し、子供を産むことが女性の義務であり、それに背くことは許されない、と思ってきた。ただし、それを受け入れつつも「仕事を続ける」という道も同時に選んだため、それこそ世界中を敵に回すくらいの覚悟をしなければならなかった。これはやはり無理があったと思う。それが原因なのか、10年に一度は手術でお腹を切られている。
保育園に入れないから子供を作れない?貧しいから結婚できない?それが少子化の原因なんだろうか。戦後の子沢山の時代に戻るのが理想だとでも言うのか。自分を押し殺して嫁ぎ先に気がねしつつ一生を送るなんて誰も望んではいないだろう。保育園があったって、お金持ちだって、子供を産むのを他人に任せるわけにはいかない。それはどうしても女性が体を張ってやらなければならないのだ。でも女性にもやりたいことは沢山ある。仕事をしたい、友達と会いたい、旅行もしたい、実家にも帰りたい、豊かな暮らしをしたい。それらをかなえつつ子供を持つ、その結果至ったのが、現代の少子化の時代なのではないか。
少子化で何が悪いんだろう。日本の人口が減る?でも世界の人口は増えている。労働力が不足する?もっと技術開発を進めてロボットを増やして働かせればいいではないか。まずは、効率の悪い働き方を止めることだ。私は、介護のときにはぜひロボットにお願いしたいと思っている。気を使わなくていいし、オムツをかえてもらうのも恥ずかしくないもの。
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コンサルティングと研修のサービスを提供します。
所長:石田厚子 技術士(情報工学部門)博士(工学)
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少子化で何が悪いのだろうか
2019.10.13